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不信は高くつく [ものの見方、考え方]

P126
 不安が連鎖するときりがありません。不信は金、コストがかかるものなのです。
私は人を信用するのがいちばん安い、結果的には得をする道だと思う。
 もちろん誰も彼も信用する必要はありません。それではオレオレ詐欺に引っ掛かり放題ですからね。でも自分が信用できると思った相手はきちんと信用する。
 かっては「かかりつけの医者」というのがいて、それを信用した。それで医者が間違ったら仕方ないね、ということでした。それをやらないようになってからややこしくなった。
セカンドオピニオンを求めたら、サードオピニオンは欲しくなるのです。
~中略~

 これは先ほどの社会コストの話とつながります。身近な医者を信用せずに全員が何人もの医者にかかったらどうなるでしょうか。全体として医療費は増えるから個人の負担額も増えます。本当に治療を要する人は医者にかかれなくなります。
 不信は高コストなのです。

P160
 ところが、これがひとつ世代が若くなると変わっていた。紛争のときの学生さんを見て「どうしてこんなに教師たちへの不信感が強いのだろう」と感じたのです。学生と教師のあいだに不信が生じたのはあの時が初めてだと思います。
 この「不信」は今でも連綿と続いています。学問の場だけでなく、それによって医療そのものも変えてしまいました。患者さんが医者を信用しなくなってしまいました。
 しつこいようですが医療訴訟問題の根本はここにあります。
 このときから、私は相手を「信用しない」ことによる社会的コストというものに、非常に敏感になったのです。相手を警戒すること、だまされないようにすることで得をすると思うかもしれません。しかし実は不信感を持つコストというのは非常に高くつきます。
なぜならばあくまでも保証を求めていかないといけない。そこに限度はないからです。

養老 孟司 (著)
養老訓
新潮社 (2007/11) 

養老訓 (新潮文庫)

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  • 作者: 孟司, 養老
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/06/29
  • メディア: 文庫


-9a37b.jpg薬師寺7 P331
共有地の悲劇
 お金と同様、信用は経済に欠かせない潤滑剤だ。人がほかの人―小売業や企業―を信用していれば、買ったり、貸したり、信用を供与したりする可能性は高くなる。
昔は紳士同士の握手で商取引がおこなわれたものだ。
しかし、握手が詐欺に終わると信用は消えさり、以後のすべての取引は、詐欺師が相手でも真に善良な人が相手でもむずかしくなる。

P335
 信用は貴重な公共財であり、これを失うとすべての関係者にとって長期的にはマイナスの結果となりうる。
大半の人も企業もこのことに気づいていないか、無視しているのではないかと思う。
信用を裏切るのはたやすい。悪いプレーヤーが市場に数人いるだけで、ほかのすべての人にとって信用がだいなしになってしまう。

P336
 今日、体重を減らし、髪を維持・再生し、セックスライフを向上させ、毎日に活力を与えることを約束する「魔法の薬」の商売は、個人で簡単にはじめられる。
疑いを知らない人たちは、そういう薬を買ってプラセボの恩恵を存分に受けながら、多額のお金を失っている。
その一方で、不正直な薬商人は大もうけしながら、総体的な信用の度合いをいっそうむしばんでいる(すくなくとも、プラセボ効果の恩恵を受けられなかった人にとってはそう言える)。
このように信用がむしばまれると、つぎの魔法の薬売りが商品を売り歩くのに苦労するだけでなく(これ自体は喜ばしいことだ)、ほんとうに信じるに値する相手を信用することまでむずかしくなってしまう。

予想どおりに不合理[増補版]
ダン アリエリー (著), Dan Ariely (著), 熊谷 淳子 (翻訳)
早川書房; 増補版版 (2010/10/22)

 

予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 増補版

予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 増補版

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/10/22
  • メディア: ペーパーバック


P41
 インターネットをちょっと検索すると、「クスリはこんなに危険」といった情報があふれており、とても合理的とは思えないような症状までが、「これも副作用、あれも副作用」
「医者はカネ儲けのために無理やりクスリを出す」などと強調されている。
 このようにこれまでの医療に強い不信感を持っている若い人たちにとっては、東洋医学的な施術やサプリメントは「からだにやさしい」「自然の摂理にかなっている」と見えるのも当然だ。
~中略~

 一方で、東洋医学や代替医療などに対しては無条件に信頼しすぎてしまい、客観的には不利益を被っていると思われることも少なくないのだ。
~中略~
 医療関係者もいまの若い世代が、「病気を治すこと」以上に「健康な状態をより長く続けること」に関心がシフトしてきていること、またなるべく西洋医学に頼らずにサプリメントや自分にできる健康法で何とかしたいと思っていることなどを理解すべきだろう。
~中略~
 ただ、これは私が医療の世界の人間だからかもしれないが、若い人たちにはもう少し「従来の医療も信じてほしい」と言いたい。

P45
どうも若い人たちは、心霊現象だけではなく、「絶対に薬草」など、民間療法の話などにたいしてもすぐに信じやすい傾向を持っているようだ。
~中略~
 なぜそこまで医学に不信感を抱き、科学的な情報を集めようとしているのに、超常現象、心霊現象となると簡単に信用してしまうのか。
~中略~
 これだけ情報があふれ返っていていて、すべてのことに「ソース」と若い人が言うような裏付けや根拠を求めることも可能なこの時代だからこそ、彼らにとって説明のつかない不思議なオカルト的な現象がその信憑性を増している、とは考えられないだろうか。
 つまり、「情報やデータが多すぎて、かえってそれらは信用できない」という逆説的な現象が起きているのだ。
 また、データではなくて「誰が言ったか」と発言者によって信用度が決定される、という傾向もあるようだ。
~中略~
 何でも理屈やデータで説明できる、と思い込むのも間違いだし、科学を信用しすぎるとあの原発事故のような悲劇につながることもあるので警戒する必要はあるが、だからといって「クスリをいっさい使わず、ハンドパワーですべてを治す先生が絶対に正しい」と即決するのもあまりに短絡的だ。

若者のホンネ 平成生まれは何を考えているのか
香山リカ (著)
朝日新聞出版 (2012/12/13)

若者のホンネ 平成生まれは何を考えているのか (朝日新書)

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  • 作者: 香山リカ
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2012/12/13
  • メディア: 新書




患者は、医者はろくでもない奴ばっかりで、自分の出世や金儲けしか考えず、そのためには患者をモルモットにすることなど何とも思わないと疑う。
医者は、患者はすぐ訴えるし、仮に患者が了解したといっても、それまで見たこともない身内や親戚、金の亡者のような弁護士が尻を叩く、と思っている。
 現在の医療不信は、後者、つまり医者が患者を信じていない、ということの方が遥かに深刻である。
同意書云々とは別に、医者が予防線を張り、必要以上の検査を行い、過剰診療を行うことは、当然のことながらアメリカでは「進んで」いて、こういうのを予防的医療(Preventive medicine)という。病気を「予防」するのではない。自分が訴えられないように予防するのである。これを非難することが、誰にできよう。  千人に一人、万人に一人、理不尽なクレームをつける患者がいる限り、病院は、製薬会社は、官庁は、結果的に一般の患者さんに対してはインフォームドコンセントハラスメントなる予防策をやめない。
第一、インフォームドコンセントを「きちんと取る」ことは必須であると、現在の医療倫理はお墨付きを出してしまっているのである。私は、この風潮は大嫌いであるが、もはや止められないと思う。

偽善の医療
里見 清一(著)
新潮社 (2009/03)
P158

偽善の医療 (新潮新書)

偽善の医療 (新潮新書)

  • 作者: 里見 清一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/03/01
  • メディア: 新書



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