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豊かさ [社会]

友人たちに冗談で言ったことはある。-大震災でもあればオール電化生活は破綻する。だから半分は昔ながらの生活スタイルを維持しておいた方がいい―。

~中略~
 翌朝、水道は使い物にならなかった。車に大鍋、やかん、ポリ容器など、ありったけのものを積んで出発した。

~中略~
雑木林のふもとに一軒家が見えた。煙突から白い煙が立ちのぼっている。薪ストーブの煙だ。一軒家の前に、樹齢千年と言われれば思わず信じ込んでしまいそうな桂の巨木がそびえ立っている。
秋には燃えるような黄金色の葉群があたりを圧倒する。その根元から清水が湧き出ているのだ。
 一軒家の中川さん宅の薪小屋に積まれている薪の量は半端ではない。働き者の家だ。

戸口を開け、大声で、「神様の水をもらいにきた」と叫ぶ。すると、中川のおばさんが居間からふくよかな顔をみせた。
「 久しぶりだこと。山が揺れたから、少しは砂が混じっているかもしれねえよ」

幸ひ思ひ出立申すべし
  簾内敬司 (作家)

世界 2011年 05月号

岩波書店; 月刊版 (2011/4/8)
P232

世界 2011年 05月号 [雑誌]

世界 2011年 05月号 [雑誌]

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2011/04/08
  • メディア: 雑誌

 (住人注;ドラマ「北の国から」は)美しく厳しい富良野の自然と、その中で生きる家族の物語。それだけで主題としては十分だけれども、この作品にはいくつかの「横糸」が巧みに織り込まれ、ドラマに奥行きを与えている。
 一つは「文明生活は私たちを本当に幸せにしたか」という問いかけだ。ある冬の夜、純が乗った車が道路で遭難する。路肩の新雪にはまり、抜け出せないまま車ごと雪に振り込められてしまったのだ。
 除雪車も出せない猛烈な嵐の中、お年寄りが出した馬ぞりが車を見つける。農耕馬が嗅覚で純を探し当てるのだが、その馬も農業経営の機械化でトラクターに仕事を奪われ、「エサ代がかかるから」と、やがて処分される。
 現代人も馬を飼え、と言いたいのではない。私たちは車や携帯電話や電気を使いこなしているけれど、いったんそれが使えなくなると、自然の猛威の前にいかに無力であるかということを考えるのだ。
 独り暮らしの母親が宮城の自宅で東日本大震災に遭遇したという男性の話を聞いた。彼は東京じゅうのスーパーをかけずり回って食料を確保し、ガソリンがなくなるのを心配しながら、寸断された道路を必死で車を走らせて自宅にたどり着いたが、そこには「いつもの暮らし」があったという。
生活用水は井戸、トイレはくみ取り、電気やガスがなくてもかまどで料理ができた。「裏の畑の野菜でお袋が作った ぬか漬けがうまくて、ほっとして、泣けました」

 ドラマに通底するもう一つの横糸は「貧しさと豊かさ」だろうか。
中学を卒業し上京する純を乗せた長距離トラックの運転手に、五郎はお礼として二万円を渡す。肉体労働で稼いだ日銭だろう、紙幣が土で汚れているのを見た運転手は「お父さんの気持を忘れるな」と、そのまま純に託す。
この二万円、純にとっては「ダメダメな自分が越えられない父親」の象徴でもあるのだが、汗と土にまみれて二万円を稼ぐ大変さは三十年経った今も変わらないどころか、長引く不景気の中でますます重みを増しているのではないか。
 一方で五郎は、やせた土地から掘り出した石と廃材で家を建てる。作業は近所の仲間が無償で手伝う。富良野では「手間返し」と呼ぶ助け合いだ。「困った時はお互い様。金のやりとりは嫌がられます」と五郎。
自分のために無償で働いてくれる人がいることの尊さはお金には換えられない。ところが、「金で買えないものはない」文明生活は、そういう仕組み自体をそうていしていないのである。

気になる科学 (調べて、悩んで、考える)
元村有希子 (著)
毎日新聞社(2012/12/21)
P228

気になる科学 (調べて、悩んで、考える)

気になる科学 (調べて、悩んで、考える)

  • 作者: 元村有希子
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2012/12/21
  • メディア: 単行本


DSC_2240 (Small).JPG風のガーデン


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