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認知症と向き合う [医学]

(住人注:認知症の)Sさんはすでに、ご家族の判別がつきません。私たち看護師をあるときは奥さん、あるときは娘さんと認識して話しかけてきます。その場合、私たちは絶対に否定しません。
否定しても患者さんが不安になったり混乱したりするだけなので、必ず話を合わせます。
~中略~

 ある日、地元で暮らす妹さんがお見舞いに訪れました。
もちろん妹さんは、自分の兄が認知症であることを知っていると思います。でも病室に入るなり、Sさんに向かって「私が誰だかわかる?名前を言ってみて」と声をかけたのです。
Sさんが答えられずにいると、なのも、「兄さん、私のこと忘れちゃったの?」と質問します。それが2~3分続いたでしょうか。Sさんはとうとう「うるさい!」と声を上げ、車椅子で病室を出て行ってしまいました。

 あっけにとられている妹さんに、私は言いました。
「Sさんは今、一生懸命あなたのお名前を思い出そうとしていましたよね。でもご本人にしてみれば、自分が忘れてしまったことを問いただされるのは、ものすごくつらいことなんですよ。だから今度いらしたときは、ご自分から名乗ってあげてくださいね」

 自分のことを覚えていてほしいという、ご親族の気持ちはわかります。
でも、患者さんはそうしたくて忘れたわけではありません。いくら思い出そうとしても、記憶の引き出しが開かないのです。
そこで無理やり引き出しをこじ開けようとすると患者さんは混乱し、イライラ感を募らせたり乱暴を働いたりします。

大切な人の「こころの病」に気づく 今すぐできる問診票付
日本精神科看護技術協会 (著), 末安民生 (著)
朝日新聞出版 (2010/11/12)
P140

P143
病気(住人注:認知症)が進行すると「食事をさせてもらえない」と腹を立てたり、「家の中でものを盗られた」と騒いだり、暴言や暴力、徘徊なども増えてきます。
それらの行為に、ご家族はいらだちを覚えることもあるはずです。でも、注意や説得をしても意味がありません。
患者さんは自尊心を傷つけられたと思うだけで、自分の行動を改めるわけではないからです。

大事なのは指示や命令をすることではなく、相手と同じ目線に立って支持する姿勢。
認知症であっても、人格と尊厳を持ったひとりの人間の人間であることに変わりはないという事実を、ケアするご家族は絶対に忘れてはいけません。

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P090
 認知症老人が失敗したりトラブルを起こしたときに叱っても、効果は期待できない。まったく期待できない。
 不適切な振る舞いに対して叱ったつもりでも、老人はそのように受け取らない。この人は自分につらく当たった、意地悪をした、因縁をつけたといったマイナス感情しか抱かない。自尊心を傷つけられたと思い、自己を否定されたと感じて恨みを抱く。
失敗したことや、間違ったことをしてしまった事実は忘れても、自尊心を傷つけられたといった気持ちだけは忘れない。それに自分を叱る相手は、十中八九が年下の人間なのである。若僧に叱りつけられた悔しさは大きい。
 潜在的な能力に期待をかけることは大切だけれども、往々にして我々は認知症の老人が「トラブルを起こしたことそのものを認識していない」「忘れたということそのものを自覚していない」「助けを求めるという発想そのものが頭にない」といった大前提をつい忘れがちである。

P091
 かれらは能力の低下に対して、漠然とした危機感や不安感を抱いている。具体的にではなくて漠然としたところでとどまってしまうところが、まさに認知症ゆえの限界なのであろう。
いずれにせよかれらは、「なんだかヤバイな、まずいな」といった違和感や困惑とともに生きている。そんなときに叱られれば、不安感と悔しさを不条理感とがプライドを傷つけられた気持ちと一体になって、根深い恨みと化しても不思議ではあるまい。

P099
 苦し紛れに人間はどんなことをするものなのか。それこそが認知症老人の言動である。まるで悪意があるように、まるで何事もなかったように振る舞いかねない。結果だけを見れば溜め息をつきたくなろうが、「どうしていいかわからないときに、かれらは助けを求められない」という認知症老人の立場を想像すれば、少なくともムカついたりせずにいられるのではないだろうか。

P100
 認知症老人は知能において極端に低下しているものの、だから感性が鈍っているわけではない。怯えたり恐れたりして、それがそのまま表現されずに問題行動へ結実してしまうのがかれらの特徴である。
いわゆる問題行動とは、内面の混乱や困惑が知能の低下と相まって生ずる不適切な(そして苦しまぎれの)振る舞いのことである。
 かれらは表現手段をもてず、記憶力や認知力の低下ゆえに時間や場所といった座標軸をもちえず、ひたすら空回りをせざるをえないことが多い。そんな認知症老人にとって、自分をとりまく雰囲気とか空気、気配といったものは決定的な影響を及ぼす。

はじめての精神科―援助者必携
春日 武彦 (著)
医学書院; 第2版 (2011/12)

P142
 引き算のときだけでなく、認知症の人と接するとき全般で介護者が心得ておかなければならないとことは、そう多くありません。必要なのは、
 おどかさない・追いつめない・おびえない
  という、この三原則だけです。

P149
 認知症に詳しい川崎幸クリニック院長の杉山博医師によると、認知症介護にあたる家族の心理的変化は、「否定」「混乱」「怒り」「あきらめ」を経てようやく、認知症の「受容」という段階に到達するのだそうです。うまくつき合えるようになるまでに、家族がつらい思いをするということは、誰もが知っておくべきです。

認知症の人がスッと落ち着く言葉かけ
右馬埜 節子 (著)
講談社 (2016/3/23)

私のこれまでの経験や体験から得た認知症介護における「6つの原則」をご紹介しましょう。私はそれを、介護の3原則「HSS」、そして「介護の鉄則AKB」と名付けました。
 最初に「HSS」から説明します。
 H―否定しない
  ~中略~
 S―叱らない
  ~中略~
 S―説得しない
  ~中略~
 では、つづいて「AKB」に行きましょう。
 A―焦らせない(急がせない)
  ~中略~
 K―(自尊心を)傷つけない
  ~中略~
 B―びっくりさせない

家族と自分の気持ちがすーっと軽くなる 認知症のやさしい介護
板東 邦秋 (著)
ワニブックス (2017/1/24)
P87


 認知症もまれな病気、他人事のように思われるかもしれない。しかし、わが国では65歳以上の人の15%が認知症に罹患している。そのうえ、ほぼ同数の数が、認知症の予備軍(軽度認知機能傷害)と見積もられている(2)。
今後、日本人の5人に1人は認知症になると推測されることを考えると、認知症は決してまれな傷害ではないことがわかるだろう。
 認知症は高齢者の身体の治療に様々な傷害をもたらす。治療との関係では、
 ①治療を自分自身で決めることが難しくなる(意思決定能力の低下)
 ②薬を時間を決めて服用することや必要な処置を自分ですることが難しくなる
 ③熱が出たり、水分も摂れないときのように緊急の受診が必要な状況を理解し、臨機応変の判断をすることが難しくなる
などの問題が生じる。

医療現場の行動経済学: すれ違う医者と患者
大竹 文雄 (著), 平井 啓 (著)
東洋経済新報社 (2018/7/27)
P171


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