父親の役割 [家族]
チンパンジーの父親は、子育てにほとんど参加しない。けれども、ぜんぜん参加しないわけではない。
チンパンジーの父親の役割は「心の杖」といえるだろう。父親がいるということが、女や子どもの心の支えになっている。
「心の杖」とはどういうことか。具体的にいえば、外敵から守ってくれるということだ。
先ほどお話したように、チンパンジーの群れにはお母さんと「お父さんズ」がいて、お父さんが集団として複数組のお母さんと子どもたちを守っている。
~中略~
だから、「はい、これどうぞ」といって食べ物を持ってきたり、給料を運んできたり、ということはないのだけれども、チンパンジーの男性たちもちゃんと子育てに参加している。女や子どもを守るという広い意味での子育てである。
男性がいた方が安心するというのは、実際にそうなのだ。
想像するちから――チンパンジーが教えてくれた人間の心
松沢 哲郎 (著)
岩波書店 (2011/2/26)
P38
西明寺 三重塔
親父が怖くなくなったのは、アメリカの個人主義や平等主義が入ってきたからだという人がいます。私は一概にそうだとは思いません。
~中略~
たとえば、レストランに親子が来た際に、子どもが退屈してスプーンなどで遊び始めたとします。それに気づいた父親は、静かな、しかし厳しい口調で、
「静かにしなさい!」
と叱り、たしなめます。子どもは渋々ながらも、
「イエス・サー(わかりました)」
と口答えもせずに静かになります。
そもそも、大人の社交場であるレストランに子どもがデビューするのは、自分で蝶ネクタイをつけることができるようになってからです。
つまり蝶ネクタイは、「大人の世界で、大人のルールに従います」という意思表示でもあるのです。
また、友人の家に遊びに行ったときでも、子どもが帰ってくると、必ず一度はリビングに顔を出して「こんにちは、いらっしゃい、ミスタータカノ」とあいさつをしてから自分の部屋に上がっていきます。
これが日本の場合だとどうでしょうか。~中略~
これは個人主義とか平等主義とかいった話ではなく、もっと基本的な、人としての規範が崩れている、ということでしょう。おそらくそれが、今の日本の世相に映し出されているのではないか。
だからこそ今、父親(父性)のしつけが見直されるべきではないかと思うのです。
母親(母性)のきめ細やかな気くばりや心くばりに加えて、子どもの心に、人としてのありようや生き方の本質を植えつける、骨太な父親の気働き。そのバランスを取り戻すのは「今しかない」ように思えてなりません。
一流の男は「気働き」で決める
高野 登 (著)
かんき出版 (2014/4/23)
P163
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