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出生率の減少 [社会]

 おそらく問題は、政府が考えているように身体的・時間的・金銭的な負担なるのではないと私は思う。
むしろ、心理的な要因が、子を持つことを控えさせているのではないだろうか。

 乱暴な表現だが、若いカップルにとってそれは「誰かについて全面的に責任を引き受けることへの恐怖」とでも表現できるのかもしれない。あるいは、「自分たちが依存される対象となることへの嫌悪」と言いかえても差支えないだろう。
自分たちは実に長期間にわたり、親のスネをかじってきた。単に経済面ではなく、心理面でも親子のきずなを頼りに生きてきた。
そういう者たちにとって、自分たちが誰かに関する責任を全面的に引き受けると言うのは、とてつもない心の重荷となる。その重荷が、子を産むことをためらわせる最大の原因なのだと推測される。

ケータイを持ったサル―「人間らしさ」の崩壊
正高 信男 (著)
中央公論新社 (2003/09)
P173

ケータイを持ったサル 「人間らしさ」の崩壊 (中公新書)

ケータイを持ったサル 「人間らしさ」の崩壊 (中公新書)

  • 作者: 正高信男
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/07/11
  • メディア: Kindle版

 

-402cf.jpg金剛輪寺 黒門

P119
どんな国でも、その繁栄の最も決定的な指標はその住民数の増加である。
大ブリテンと他の大抵のヨーロッパ諸国では、住民数が五百年以内に二倍になるとは考えられない。ところが北アメリカの大ブリテン植民地では、住民は二〇年ないし二十五年のうちに二倍になる、ということが明らかにさえれている。
現在でも、こうした増加は、新しい住民がたえず流入することに主としてもとづくものではなく、その地の人口の大きい増殖にもつづくものである。
同地では老年まで生きている人々は、自分の身体から生まれてきた五〇人ないし一〇〇人、ときにはそれ以上にものぼる子孫を生存中に見ることがしばしばある、といわれている。
そこでは、労働の報酬がたいへんよいために、子供が多いということは親たちにとって重荷であるどころか、富裕と繁栄の源なのである。

P123
だが、労働の維持にあてられる基金(ファンド)が目立って減退しつつある国では、事情は異なるであろう。そういう国では、使用人や労働者にたいする毎年の需要は、すべての職業を通じてその前年よりも少なくなるだろう。
高級な種類の職業を仕込まれた多くの人たちは、自分たち本来の業務では雇用を見出すことができなくなって、最下層の中でも雇用の道をよろこんでさがすようになるであろう。この最下層の種類の職業も、それに属する職人で供給過剰となっているばかりか、他のすべての種類の職業からあふれ出てきた職人で供給過剰になっているのだから、雇用をもとめる競争は、そこでは非常にはげしくなり、その結果、労働の賃金は、労働者の最もみじめで乏しい生活水準にまで引き下げられるであろう。
多くの人々は、こういうひどい条件でさえも雇用を見出すことができなくて、餓死するか、さもなければ乞食をするなり、おそらくは最大の非行をしでかすなりして、生存の道を求めざるをえなくなるであろう。
困窮、飢餓、死亡がたちまちのうちにその階級のなかにひろがり、そしてそこから上流の階級全部にまで波及して、そのあげく、その国の住民数は、そこに残った収入と資本(ストック)によってやっと維持される程度にまで減少してしまうであろう。

P136
市場は一方の場合には、労働がそれだけ供給不足であり、他方の場合にはそれだけ供給過剰であって、この過不足は、社会の事情が必要としている適当な率にまで、労働の価格をまもなくひきもどすであろう。
このような仕方で、人間にたいする需要は、他のすべての商品にたいする需要と同じように、人間の生産を必然的に左右する。 すなわち、それがあまりに緩慢に進む場合にはこれを速め、またそれがあまりに迅速な場合には、これを停止させるのである。 世界のすべての国々において、すなわち北アメリカにおいて、ヨーロッパにおいて、シナにおいて、人間繁殖の状態を左右し決定するものは、人間にたいするこの需要なのである。
そしてこの需要こそが、北アメリカでは繁殖を急テンポで進ませ、ヨーロッパではそれを緩慢で漸進的なものにし、またシナではそれをまったく停滞ものにしているのである。

国富論 (1)
アダム・スミス (著), 大河内 一男 (翻訳)
中央公論新社 (1978/4/10)

国富論 (1) (中公文庫)

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  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 1978/04/10
  • メディア: 文庫

 


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