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安心社会は正直者を育てない [社会]

  結局、都会の生活に適応していこうとすれば、まず自分の頭で、相手が信頼に足りる相手なのかどうなのかを考える習慣を作らなければいけないというわけなのです。
~中略~
 農村のような集団主義社会とは本質的に「信頼」を必要としない社会であり、逆に都会のような、いわば個人主義的な社会とは本質的に「信頼」を必要とする社会である―一見、パラドックスのように見えますが、このことが分かれば「和の民族」であるはずの日本人が容易に他者を信じない、その理由が分かってくるというものでしょう。
さらに言えば、他人との共同作業において、日本人が他者を信頼できずに一匹狼の道を選ぶというのも納得できるはずです。

日本の「安心」はなぜ、消えたのか 社会心理学から見た現代日本の問題点
山岸 俊男 (著)
集英社インターナショナル (2008/2/26)
P110

日本の「安心」はなぜ、消えたのか 社会心理学から見た現代日本の問題点

日本の「安心」はなぜ、消えたのか 社会心理学から見た現代日本の問題点

  • 作者: 山岸 俊男
  • 出版社/メーカー: 集英社インターナショナル
  • 発売日: 2008/02/26
  • メディア: 単行本

 

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犬飼石仏

P124
日本人が長らく生活してきた安心社会とは、実は「正直者である」や「約束を守る」といった美徳を必要としない社会であったからです。
つまり、安心社会とは正直者を必要としない、正直者を育てない社会であるというわけで、そのことを知っているからこそ日本人は他者を容易に信じようとしないのです。
~中略~

 安心社会では、その人が正直者であるか、嘘つきであるかは本質的には関係ありません。
 なぜならば、安心社会では、社会そのものがそこに暮らすメンバーたちに正直さや、律義さを強制するような仕組みになっているからです。
つまり、彼らが正直で、約束を守るのは、もしそうしなかったら社会からペナルティを受けることが分かっているからに他ならないからで、正直者でありたいと考えて、そう振る舞っているとはかぎらないのです。
~中略~
安心社会に生きている人たちが正直でいるのは、身内同士の監視があるからであって、自制心のたまものというわけではありません。
 したがって、こうした監視がなくなってしまうと、安心社会の人たちの行動はとたんに放埓になってしまいます。頭の輪っかがなくなったら孫悟空が、たちまち三蔵法師の元を脱走して、悪事をやり放題になるのと同じことです。
 そうした安心社会の人々の特性を象徴するのが「旅の恥はかき捨て」ということわざです。

 

P190
 ホフステッドは、一九七〇年代後半に巨大多国籍企業であるIBM社の世界四〇カ国の従業員一一万人に質問表をを送り、そのデータを使って各国の国民性を分析しました。
~中略~
 統計分析の結果、ホフステッドは国民性という概念が四つの次元からなることを明らかにし、一九八〇年に著書として発表しました。それは以下の四つです。
▷individualism=Collectivism:その国の人々が個人を重んじるか(個人主義)、集団のアイデンティティを重んじるか(集団主義)、を表す指標。
▷Power Distance:その国の人々が、権力に不平等があることを受け入れているか、という指標。
▷Uncertainty Avoidance:その国の人々が不確実性を避けがちな傾向があるか、という指標。
▷Masculinity:その国の人々が競争や自己主張を重んじる「男らしさ」で特徴づけられるか、という指標。
~中略~
日本人の個人主義指数は四六で、六九ヵ国中で三二番目に個人主義志向が強い、という結果になっています。
~中略~
 私たちが自らを集団主義と思い込んでいる理由の一つは、自分たちを欧米の人たちと比較しがちだからかもしれません。 アメリカの個人主義指数は一位ですし、イギリス、オランダ、カナダ、イタリアなども軒並み一〇位以内に入っていますから、これらの国の人たちと比べれば、たしかに日本人は集団主義といえそうです。
しかし、たとえばアジアの国々(中国〔五五位〕、韓国〔五八位〕、インドネシア〔六四位〕など)と比べれば、むしろ日本人のほうが個人主義的な傾向が強いのです。

P200
 ハフとケリーは、六ヵ国の銀行の管理職一二八二人にアンケート調査を行いました。 その結果、自分の所属するグループの外部の人たちを一番信用しやすいのは、実は個人主義であるはずのアメリカ人であることを発見したのです。
逆に、アジアの人々はアメリカ人よりも外部者をなかなか信用しないという結果となりました。そして中でも、外部者を信頼する傾向が低かったのは、韓国人、中国人、そして日本人だったのです。
 私は、ここで日本人がどうだこうだと議論する気はありません。
 しかしこの結果を受けてみなさんに考えていただきたいのは、日本人が欧米の人たちと協力してビジネスを行なうときに、往々にして「彼らは個人主義だから、全体の和を乱すんだよなあ」などと言い訳してしまいがちなことです。 ハフとケリーの結果が正しいとすると、信頼関係が重要なビジネスにおいて、信頼を築く妨げになっているのは、欧米人ではなく、むしろ日本人の方かも知れないのです。
 逆にこの結果は、日本人がより集団主義的な他のアジアの人々とビジネスで付き合う上での難しさを示唆するものともいえるでしょう。
アジアの国々は今後日本人にとっていっそう重要なビジネスパートナーとなることは疑いがないところですが、集団主義的な彼らと「やや集団主義的」な日本人が互いに信頼関係を築くのは、なかなか簡単でないのかもしれません。

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア
入山 章栄 (著)
英治出版 (2012/11/13)


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