役人は心を労して本に報いる [日本(人)]
一体に頭役は、人心を得るのが一番である。その人心を得るのには、我が身を勤めて私欲を絶ち去らねばならない。
万人の頭に立つと、下々のものはどのような無理を申し付けても、容易には背けなくて嫌々ながらでもかしこまるものだから、与人役というものは貴くて、わがままに振る舞ってもいいのだと心得てしまう。
そうなるとたちまち、与人役は万人の仇敵となり、もう頭役ではなくなってしまう。役目というのは何のために設けられたのか、自分勝手をしてよいはずはない。
天は万民を扱うことができないので、天子を立て、万民が安心してそれぞれの業を行えるようにしたのだが、天子御一人では行き届かないから、諸侯を立て領分の人民を安堵させようと言い、それもままならないので諸有司を設けたのだ。
これはみな、万人のためであるから、役人においては、万人の疾苦は自分の疾苦だと心得、万人の歓楽は自分の歓楽にし、日々天意を欺かず、その本に報いるのが良役人ということだ。もし、この天意に背くなら、天の明罰は逃れられないから、心しなければならない。
百姓は力を労して本に報いるのが職分で、いっぽう役人は心を労して本に報いるのが職分である。
西郷隆盛「南洲翁遺訓」―ビキナーズ日本の思想
西郷 隆盛 (著), 猪飼 隆明 (翻訳)
角川学芸出版 (2007/04)
P50
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