夏のもてなし [雑学]
夏はものごとみな、涼しく、涼しげなのがなにより、という。いうまでもないこと、暑い時には涼しさが最上のもてなしだし、涼しくできずとも、せめて涼しげに、と心くばりするのは、当然のことだろう。
また、夏はあっさりがいい、しつこいのはよくない、という。これも一応は、なるほどその通りだとうなずける。部屋のしつらえも、飾りつけなど少なくし、家具もなるべくは片付けて、しつこくなくする。衣服もあっさりした柄の白地を着る。
衣と住はたしかに、あっさりしたのがいい。だが、ことひとたび食に関してとなると、私はとてもあっさりだけでは、不承知なのである。なにしろ気候からしてが、かなりな湿度を伴った、相当しつこい暑さである。それをしのごうというのに、あっさりではとても、保つものではない。
(一九七一年 六十六八歳)
幸田文 台所帖
幸田 文 (著) , 青木 玉 (編集)
平凡社 (2009/3/5)
P128
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