土門拳 古寺を訪ねて [見仏]
前略~
戦中、戦後、関西のお寺の写真を撮りに行くときも、何もいわず撮影の荷物をまとめて出てゆく。家中のお米もお金ももっていってしまうし、勝手なもんです。
一度出ていくと一週間なんか短いほう。帰って現像して合点がいかないと、またスーッといなくなるの。
口の悪い人に「あれだけたくさん撮りゃ、中にはいいものもあるさ」なんていわれたけど、こっちは「なんぼ撮ってもいいのがない人もいるわ」ってね。それでいて家族の写真はフィルムがもったいないと1枚も撮りませんでした。
とにかく仕事のことになると夢中で、お弟子さんたちがお腹が空いてへなへなになっていても、自分が写しているあいだは「おい、何してるんだっ」なんて怒るの。
好きなことにかけては、人が騒いでいようと泣いていようと、耳に入らない目に入らない。
何でも凝ってしまうから、いつも予算オーバーというか、予算なんて初めからない。~後略
土門たみ
土門拳 古寺を訪ねて―奈良西ノ京から室生へ
土門 拳
小学館 (2001/09)
P194
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