分を越ゆるなかれ [倫理]
この二宮金次郎こと尊徳先生が幕臣に取り立てられたのが、天保十三年(一八四二)十月六日。ときに五十六歳。
荒れ地を開拓して豊かな農地にするなど、これまでのすぐれた農政家としてのこの人の手腕に大いに期待がかけられたのである。たしかに、豊富な農業知識に基づく合理主義の生産活動は、時代の先端をいっていた。
それと質素倹約、勤勉第一、天地の恵みに対する報徳思想とその生き方は、多くの人々の心を打った。
~中略~
逝去は安政三年(一八五六)十月二十日。享年七十。最後の言葉がいい。
「葬るに分を越ゆるなかれ。ただ土を盛り、わきに松か杉を一本植えれば足る」
この国のことば
半藤 一利 (著)
平凡社 (2002/04)
P197
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