心柄人柄がものをいう [処世]
何度かそういうお手伝いをした甲斐に、取込事の台所の大変さもわかりましたし、それがうまくいくかどうかは、大勢の働き手たちの和、不和にかかっていることも、その和は台所を宰領(さいりょう)する人の、人柄にかかっていることも知りました。
切盛り、按配といいますが、大根を切り人参を盛るばかりが切盛りではなく、集まってくるさまざまな面倒ごとをさっさと捌(さば)いていくのが切盛りです。
煮焼きの味ばかりが按配ではではなくて、予定外の事態や働く人の気持ちを、ぬかりなく上手に処理指導するのが按配なのでした。
印象ふかかったのは、料理のうでのあるかたが宰領になって、その台所がちっともうまくいかなかったことです。
取込の台所は、やはり心柄人柄がものをいうのであって、煮炊きの多少の技術が先行するものではないと思います。~略~
(一九六六年 六十二歳)
幸田文 台所帖
幸田 文 (著) , 青木 玉 (編集)
平凡社 (2009/3/5)
P43
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