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想像力をはたらかせる [日本(人)]

  この極東の島にいる日本人のおもしろさは、オランダ文字といういわば針の頭ほどに小さな穴を通して、広大な西洋の技術世界をのぞいている。
 蔵六は生涯西洋にゆこうともせず、ついに行かなかったが、しかし、
「西洋とはこうであろう」
と、オランダ文の構文や単語をたどりつつ想像した。蔵六だけではなく、すべての蘭学者がそうであった。西洋人が、ヨーロッパの他の言語をまなぶ作業とは、大いにちがっている。言語をまなぶことは、未知の世界に対してそれぞれの学び手がもっている文明の像と質に対する想像力を最大限にはたらかせることであった。

   そういう想像力の作業は、この地球上のいかなる民族よりも、日本人はふるい鍛錬の伝統をもっていた。
千数百年のあいだ、日本人は漢文という中国の古典語をまなび、それによって、その肉眼で見たこともない中国文明の世界を知ろうとした。
知ろうとすることは、日本人にとって想像力をはたらかせることことであった。

花神〈上〉
司馬 遼太郎 (著)
新潮社; 改版 (1976/08)
P400  

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 ボクのところだけに誤診例が集まるわけはない。いっぱいあるはずです。
みなさんは「精神科にははっきりした検査データもないことだし、誤診も起こるんだろう。自分は精神科医になんかならないから関係ない」と思うかもしれませんが、全然そうじゃないの。もうあらゆる科で、すごい誤診が起こっている。どんどん誤診が増えています。
 最近、誤診例が増えているのはなぜか、いちばん大きな理由は、診断が形式化されているせいです。
診断マニュアルというのが作られて、「これとこれとこれの症状があれば、この病気」「これとこれだとこの病気が疑わしいけれども、もう一つ加わると確定診断」という診断マニュアルが全科で用いられています。
ところが、何となく感じる匂いというものは、その医療者のとても主観的なものだから、マニュアルには盛り込めない。マニュアルは、万人が等しく見ることのできる症状を取り上げて作るものですから。
 そうすると、医者になるくらいの知能の人だったら、センスは悪くても、ほんとはアホチンでも、みんなが合意できるような指標だけが取り出されるので、誰でもほぼ同じ診断ができて、個人のセンシティビティを活かしてする診断には全然ならない。そのことが誤診の多くなっている第一の理由です。
 しかも診断するこの時点で、症状があるとかないとか、いくつあるとかいうことで診断しますから、診断がついたときには、正しい診断がなされたとしてもほとんど手遅れです。たった一つぐらいしか指標がない時点で、「はっきりした診断にはならないけれども、これじゃないかしら?」という診断が浮かんで、そして試行錯誤的に治療が開始されることによって医療は成り立つの。誰が診ても分かるようになってから治療が出発したのでは、全然手遅れなの。しかも、間違った診断でやられると、もうむちゃくちゃです。
 症状がちょっとしかなくて、診断がつかないときに何が行われているかと言うと、症状に対する治療、症状を消す治療が行われます。
ところが症状というものは、病因と、それに抗っている生体の自然治癒力との合成によって出来ていますから、診断がつくまでに、症状に対して薬を出したり処置をしたりする治療は、ますます診断を誤らせる結果にしかならない。 初期の時点で、「こうかもしれん、ああかもしれん、ひょっとしたらこうかもしれん」と可能な診断をいくつか考えて、思いをめぐらす習慣が、医者の日常からなくなってしまっている。だからよく分からんでも、診断が決まるまでは症状に対して治療しておくということになる。
 この医者の態度がいあかに間違いであるかということを中学生が告発したのが、一九九八年に起きた和歌山ヒソ中毒事件。女子中学生が「犯人は他にもいる」という題の論文を「文芸春秋」に投稿して、賞を貰いました。~中略~
 ヒ素をのんでみんな吐く。吐いている人がたくさん、あっちこっちの病院に担ぎ込まれて、「吐いて苦しそうだ」と、吐き気を止める薬を出した病院に行った患者さんは死んだ。そして「吐くのは胃に変なものが入っているからかもしれない。訳は分からんけど一応、胃洗浄をしておこう」と、その処置を選んだ病院に行った患者さんは死ななかった。「見たところ、吐き気だけでも止めてやらんと苦しそうだから」と、止めてもらった人は死んだの。「その医者も犯人だ」とその中学生は言っているんです。
 医者の想像力の欠如だね。欠如はどこからくるかと言うと、症状や検査データが全部揃ってから診断を考えるという習慣からです。

神田橋條治 医学部講義
神田橋 條治 (著), 黒木 俊秀 (編集), かしま えりこ (編集)
創元社; 初版 (2013/9/3)
P015

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