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胃ろうの医学的根拠 [医学]


大切な人をどう看取るのか――終末期医療とグリーフケア

大切な人をどう看取るのか――終末期医療とグリーフケア

  • 作者: 信濃毎日新聞社文化部
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2010/03/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)




国内で胃ろうを作った人の予後の追跡調査はほとんどなく、生存率やQOL(生活の質)を改善するという医学的根拠はない。
欧米では、回復するまでのつなぎとして評価する声がある一方、必ずしも期待した効果が得られるとは限らないとする調査結果も多い。
米国のメディケア(高齢者対象公的医療保険)を受給する胃ろう患者8万人余を対象にした調査では、術後30日の死亡率が約24%、1年が63%と高く、早期死亡が多いことが判明、「高度認知障害の人に胃ろうをつくっても生存率やQOLは改善しない」 「嚥下障害の人を胃ろうにしても誤えんを防げない」との報告もある。国内と欧米ではケアのあり方が異なるため、国内の実態調査を求める声は根強い。

大切な人をどう看取るのか――終末期医療とグリーフケア
信濃毎日新聞社文化部 (著)
岩波書店 (2010/3/31)
P52

大切な人をどう看取るのか――終末期医療とグリーフケア

大切な人をどう看取るのか――終末期医療とグリーフケア

  • 作者: 信濃毎日新聞社文化部
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2010/03/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


TS3E0692 (Small).JPG呉市 下浦刈 下島 蒲刈大橋

P53
 患者が高齢の場合、脳血管障害で胃ろうにして再び口から食べられるようになる人は20%前後にすぎない。病状やQOL(生活の質)の改善が少なく、むしろ長期介護が必要になる場合も多いため、高齢者に胃ろうをつくる際は慎重な判断が必要とされる.
長寿科学振興財団(愛知県)が2006年度に行った実態調査の結果では、「医学的適応」ではなく、在院日数短縮や転院・退院といった「社会経済的適応」で胃ろうをつくる場合が86%を占めた. 「本人・家族に意思確認していない」「適切なインフォームドコンセント(十分な説明と同意)がなされていない」など多くの課題が浮かんだ.

P26
二〇〇四年四月。長野県内に住む隆司さん(住人注;55・仮名)の九〇代の母親が在宅医療に入って、間もなく六年位なる。 脳梗塞の後遺症で寝たきりになり、既に意思表示はできない。
嚥下障害で口から食べることも難しくなっていた。それでも栄養状態が良好だったのは、「胃ろう」(→解説6)のおかげだった。
 その胃ろうが隆司さん夫婦を混乱させていた。
 母親に1分でも一秒でも長く生きてほしい。でも六年が経過したいま、胃ろうで「生かされて」いる母親の表情を見ていると、「早く楽になりたい」と訴えているようにも思えた。

P32
 患者が認知症などで意思表示できないとき、もし家族が胃ろうの注入を中止したいと希望しても、多くの医師は二の足を踏む。殺人罪など刑事責任を問われかねないからだ。
~中略~
「延命治療の中止は批判を受けやすいし、胃ろうをつくってしまうほうが医師にとってストレスは少ない。それでも医療者が患者・家族の思いを察してあげることが必要だと思います。
~中略~
脳血管障害で食べる力を失い、胃ろうをつくったものの、患者は声を出すことはなく、表情も失っていた。「本当に幸せなのか」。
訪問看護師らスタッフ約一〇人と話し合ったが、「自分がこの状態でも胃ろうを望む」と答えた人は誰もいなかった。 「いい医療」ではない、という認識を強くした。「寝たきりで知的能力も荒廃した人に胃ろうをつくっても、本人が幸せを感じることはほとんどない。逆に合併症を起こしたり、栄養剤が逆流して肺炎を起こしたりして、苦痛を長引かせるばかりです」

P47
「水を差すようですが、アルツハイマー病の終末期の患者は胃ろうの「適応外」だと考えています」
壇上の大沢誠医師(54)が短い講演をそう結ぶと、医師や看護師ら約二〇〇人で埋まった会場が一瞬、静まり返った。

P48
 「胃ろうは食べる力が回復するまでの「つなぎ」として始まった。それがいつの間にか「ゴール」になっている。しかも倫理的検討は置き去りのまま」

P51
解説6 胃ろう
 腹部に穴をあけて、体外から直接胃の中に栄養剤を入れる栄養法.19世紀半ばから開腹手術でつくられてきたが、1970年代に米国の医師が胃カメラで位置を確認しながら少ない麻酔と切開でカテーテル(細管)を入れる手法(経皮内視鏡的胃ろう造設術=PEG)を開発.手術室に入る必要はなく、10分ほどでつくれるため、1990年代後半から日本でも急速に広まり、2008年現在国内の患者数は25万人ともいわれる.
胃に直接栄養剤を入れる手法には、鼻から管を入れる経鼻経管栄養もあるが、患者が自分で引き抜いたり、鼻や食堂に潰瘍ができたりするなど課題があるため、長期に栄養をとる手法として胃ろうが選ばれることが増えている.

 

大切な人をどう看取るのか――終末期医療とグリーフケア

大切な人をどう看取るのか――終末期医療とグリーフケア

  • 作者: 信濃毎日新聞社文化部
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2010/03/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)




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