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徒手空拳の感覚 [医学]

 だから、日本中の精神科医が尊敬している中井久夫先生が、「精神内科から精神科に回された患者を診たら、変性疾患を疑う。脳外科から回ってきた患者は、脳腫瘍を疑う」とおっしゃっています。
専門家が診て、何もないから精神科に回ってくるんですが、専門家の見落としの場合が経験的に多い。
専門家は同じような患者をずーっと診ていて、その中のちょっと例外的なケースだと見落とすんです。そういうことがありありますので、みなさんも徒手空拳ということを大事にしてほしいの。
 今までの話は、診断の話です。診断の器具や手技を的確に選んで、間違いなく使えるように「徒手空拳」の感覚が大事なんです。大きな誤診を免れます。

神田橋條治 医学部講義
神田橋 條治 (著), 黒木 俊秀 (編集), かしま えりこ (編集)
創元社; 初版 (2013/9/3)
P119

黄檗山万福寺 (21).JPG黄檗山万福寺

P121
 昔、教授会が医学部改革の提言を募集したことがありました。ボクは「先に臨床を教えて、後から基礎を教えるようにする」という提言をしたけれど、無視されました。
せめて基礎と臨床を交ぜて、並行して教えるといいと思うだよね。基礎の勉強は面白くないんだよね。
解剖学の授業もずうっと寝ていました。寝ているうちはいいけれど、あの頃は出席も取らないから出席もせんで、その辺の芝生で寝転んで遊んでた。
九大は幸い芝生がきれいだから、昼寝をするのにいいのね。今になると、あれはもったいないことをしたなと思います。 そういう基礎の知識をもう一度見直してみることも、徒手空拳の感覚を育てるのに役に立ちます。

P123
 「徒手空拳」の能力がないお医者さんが増えているものだから、医療は今やむちゃくちゃなの。
そういう人たちも、今ボクが言ったようなケースについての知識はみんな持っているんだよ。
聞かれたら、全部答えられる。だからペーパーテストでは、たとえばスルピリドを出すと錐体外路症状がでるから注意しないといけないということも、全部知っています。だから無知ではない。
だけど副作用とか、変なパラドキシカルなリアクションとかいうものは、一〇〇人に一人とか二人とかしか出ないの。
今、眼の前にいるその患者にそれが起こっているかどうかを分かるには感覚を使うしかないの、不審と思う感覚です。

P125
 そしてどういうことになっているかと言うと、整体をやっている人とか、お祈りをやっている人とか、新興宗教の人たちが、「医者にかかって治らなくて、かえって悪くなった人たちを私たちが治した」とか、「ゲルマニウム水でガンが治った」とか言っています。このなかの、かなりのパーセントは、医者が悪くしていたのを、ただ無益無害な治療に移したのでよくなっただけでしょう。さっき言ったように、治療で悪くしていた症状は、治療を止めればすぐによくなるからね。
そういうのが、かなりのパーセント入っているんだよ。
 そして、これを言っておかないといけない。そうしたことを自分が起こさないということは不可能ですが、起こしたときに、一時間でも二時間でも早く発見するようなお医者さんになるために、「徒手空拳」の感覚を磨いてほしい。


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