自然は優しい [ものの見方、考え方]
ぼくの経験では、もっとも親身で優しく、純粋無垢で力になってくれるような友人は、自然のなかにはいくらでもいる。それは、哀れな人間嫌いの人や、やたらとふさぎこんでいる人にとっても同じことだ。
自然の中に住み、自分の感覚をもち続けていれば、先の見えない憂鬱などありえない。―「森の生活」
ヘンリー・デイヴィッド・ソロー(著), 岩政 伸治 (翻訳)
文遊社 (2009/10)
P10
私はしばしば山に登る。それは山がいつも私の前に立っており、私はただわけもなく、それに登りたくなるのだから。
あながち「岩の呼ぶ声」に惹きつけられるというのでもない。私にはむしろ岩は多くの場合恐怖の対象物でしかあり得ない。
「雪と氷を追って」私の若い血潮が躍るのでは更にない。「白い芸術」は私には余りに遠い世界に距(へだた)っており、氷の労作(アイス・ワーク)は私には肉体的にも精神的にも余りに大きな負担であり、痛苦と屈服のみ与えこそすれ、なんら、戦闘意識といったものすら起し得ないからである。
私には、私の山、千メートル級の山々の何物をも限界から奪い去るひどいブッシュの中であってもいいのだし、また単に山々の懐深く入りながら、かえって峰々の姿も見ないで谷から谷へと歩くばかりでもいいのである。
新編 単独行
加藤文太郎
(著)
山と渓谷社 (2010/11/1)
P117
コメント 0