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橋本佐内 [雑学]

(住人注;橋本景岳、景岳は号、名は綱紀、通称を佐内)先生は七つの年から学問を始められ、初めは舟岡、高野らの先生に就いておられましたが、やがて吉田東篁(とうこう)先生に入門して、山崎闇斎先生から浅見絅斎(けいさい)先生と受け継がれて来た学統の列に列なって、忠君愛国の精神を確立せられましたことは、先生を理解する上に、極めて重大な点であります。
 やがて嘉永元年、先生が十五歳の時に「啓発録」という著書を作られました。~中略~
 その翌年嘉永二年に先生は十六歳、大阪へ遊学して、緒方洪庵先生の適塾へ入り、オランダ語を学び、西洋医学を学ばれました。
当時、蘭語を学ぼうとするには、大阪ならば緒方洪庵、江戸ならば杉田成卿(せいけい)、これは東西の双璧であって、志ある者みなこの二人に就いて学んだのであります。
景岳先生は、大阪に学ぶこと三年、父の病死によって一時福井へ帰られましたが、安政元年二十一歳の春、江戸へ上って杉田成卿先生の門に学ばれました。
~中略~  

啓発録
  橋本 左内 (著)
  講談社 (1982/7/7)
   P238

啓発録 (講談社学術文庫)

啓発録 (講談社学術文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1982/07/07
  • メディア: 文庫

 

 江戸の遊学によって得られましたのは、ひとり西洋の学問知識ばかりではありません。その間に接触し、交際せられましたのが、藤田東湖・佐久間象山・芳野金陵・安井息軒など、いずれも当時、名の一世にひびいた人物でありましたから、その接触交遊は魂をみがく上に、大きな働きがあったに違いありません。
~中略~
 明倫館の改革に当たること、約一年、安政四年の八月には、国家の急務に促されて、先生は江戸へ出てこられます。年は二十四歳、肩書は藩主の侍読兼御内用掛(じとうけんごないようがかり)、仮にいえば秘書官とでもいっていいでしょう。
~中略~
 当時の日本国、重大問題が二つありました。一つは鎖国か開国かの問題、今一つは将軍徳川家定病気重体であって、しかも後嗣(あとつぎ)が無い、これをどうするかという問題、以上二つとも、非常にむつかしい問題でありました。
~中略~
 この国家の大問題に対して、人々の困惑して議論沸騰しました時に、橋本景岳先生の立てられた説は、真にすばらしいものでありました。その要領は、次の通りであります。

 すなわち同じ地球の上に国を立てながら、自分だけが孤立して、一切外の国とは交際をしないということは、不条理であり、不義理であって、するべきことではない。
その上に、それは、航海術の発達した今日においては、不可能なことであり、できる相談ではないのだ。
すべきことでもなく、できる相談でもない以上、当然鎖国の方針を一変して、国を開いて万国と交わらなければならないのであるが、世界の情勢を観察するに、弱肉強食の有様で、弱いものは征服せられて亡国となる例が多い。
それ故に開国に当たっては、軍備を充実しなければならず、その軍備といっても、昔風の槍や刀だけでなく、西洋の兵器と戦術を研究して、それに対抗し、これを撃破する力をもたなければならぬ。
殊に注意しなければならないのは、世界の強国の動きだ。今日強国というべきものは英国と露国とであって、遠い将来に国際連盟のようなものができるであろうと思われるが、その時にも連盟の牛耳を執るものは、英・露二つの国のどちらかに相違ないと思われる。
しかしただ今のところ、アジアに迫ってくるものは、北からは露国、南からは英国、一つはシベリアを席巻して進み、一つはインドを併呑して清国に迫ってきた。
日本はこの二つの強国に対処する方針を策定しなければならない。自分の考えでは、この二つの国は互いに相争っているのであるから、我が国はどちらか一つの国と同盟するがよい。
もし日英同盟成立すれば日露戦争が起り、逆に日露同盟成立すれば、日英戦争となるのであろうが、どちらにせよ同盟があれば我が国は苦戦であり敗戦であっても、全然亡国となることはあるまい。そしてその苦戦の経験により、鍛練せられて強国となってゆくに相違ない。
但しこの方針をもって進むためには、国内の態勢を今のままにしておいてはならない。日本国の国体の本義にかえり、天皇を奉じ、天皇を中心として、三千万の国民一丸となって進まねばならない。
そして国民の中には、さがせば必ず人材があり才知才能があるから、従来の身分その他の関係を離れて、有能の人材を抜擢し、適材を適所に登用しなければならぬ。
かような見地から言えば、将軍の後嗣についていわれている二人の候補者の優劣はおのずから明瞭である。・・・・
平泉洸
(昭和五十六年十月四日財団法人ふくい藤田美術館開館記念公園再録)

啓発録 (講談社学術文庫)

啓発録 (講談社学術文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1982/07/07
  • メディア: 文庫

 


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