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大運いづれの時にか亨(とほ)らん [人生]

 

秋夜

絡緯( らくい)秋を知るに似たり

悽々( せいせい)として草中に鳴く

回風 寒葉を掃き

簌々( そくそく)として雨声かと疑ふ

愁( うれ)ひ結びて燈火細く 

神澄みて魂しばしば驚く

男児 志蹉跎( さだ)して                     

三十 未だ( えい)を請( こ)はず

剣を撫( ぶ)して起( た)つて 惆悵すれば                       


列星 前楹( えい)に燦( さん)たり

仰ぎ監瞻( み)る天漢の上

愧( は)ず吾が名を記すなきを

歳華 駸々として去り

白露 芷蘅( しこう)を凋( しぼ)ましむ 

酒薄くして酔を成し難く

病骨いたずらに崢嶸( そうこう)たり

吾が道 天地に存す

大運いづれの時にか亨( とほ)らん 


啓発録
  橋本 左内 (著)
  講談社 (1982/7/7)
   P222

P223
安政五年、謹慎幽居中の作~中略~
くつわむしが草むらの中で、いかにも秋が来たことを知っているといった様子に、かなしく鳴いている。
また木枯らしが、雨声にも似た切ない響きをたてて、わずかに木に残っている枯葉を吹きはらってゆく。
この時、わたくしは、その秋の気にさそわれてか、くらい灯火のもとに憂愁、心に凝り、神気が冴えてしばしばハッと胸のつぶれる思いをおこした。
思えば、男児と生まれながら、その志、事とたがって、三十になろうとしていながら、まだ仕官もならず、空しく幽閉の身の上である。
そこで思わず剣を撫でつつ起って嘆息すると、満天の星がその光を縁の柱に投げかけているのが目に入った。
わたくしはそこで、天の河を見上げて、わが名が歴史に記されるほどの仕事を成しとげていないことを恥じ入ったことである。
時の過ぎゆくのはまことに早いもので、夜の白露は香り高き草の勢いを衰えさせ、それはあたかも、わが身の失脚失意を連想させるものがある。
そこでせめてこの心の憂いを慰めんものをと酒を飲んでみたが、その酒もうすく、いっこうに酔いを発せず、ただ病み衰えた身に心ばかりが高ぶってくる。
わが行かんとする道は、天地の間に永遠に存して滅びることなき真理であることを確信しているが、是非非にして、その実現はむつかしい。
いったい、いつの日になったら、大運開けて、その具現がかなうであろうか。
今の世の姿では、とてもその予想は立てられない。

父や我を生み、母我を育つ。
天や我を覆い、地我を載す。
身男児たり。
宜(よろ)しく自ら思ふべし。
苶々(でつでつ;注:ぐったりと疲れた様子)として寧(なん)ぞ草木とともに枯れんや。
(漢詩「述懐」)

山田方谷のことば―素読用
山田方谷に学ぶ会 (編集)
登龍館 (2007/07)
P12



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