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東方礼儀ノ国 [国際社会]

 儒教というのは、日本にあっては紙で木版印刷された書物というかたちをとりつづけてきたが、中国ではもっとおそるべきものなのである。
漢以来、統治の原理であり、多分に体制そのものであり、これを統治されるものからいえば、人間関係の唯一の原則で、人間であるかぎりこれ以外の習俗はない。
李朝五百年間、中国的儒教体制の模範生であった朝鮮は、中国の歴代王朝から、
「東方礼儀ノ国」
 とほめられつづけてきたように、習俗として礼儀を重んじつづけてきた。むろんそれは形式主義であってもかまわない。むしろ形式主義こそ国家と人間の秩序にもっとも大切なものだというのが儒教的な思考法である。
礼とはつまり形式のことで、この形式がいかに煩瑣(はんさ)であれ、これを命がけでまもってこそ人間と社会が成立するというのが、儒教の祖とされる孔子の考え方であった。


街道をゆく (2)
司馬 遼太郎(著) 
朝日新聞社 (1978/10)
P125

街道をゆく〈2〉韓のくに紀行 (1978年)

街道をゆく〈2〉韓のくに紀行 (1978年)

  • 作者: 司馬 遼太郎
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2020/06/17
  • メディア: -





DSC_0590 (Small).JPG斑鳩寺 (兵庫県太子町)


P126
朝鮮は、李朝五百年だけでなく、新羅の後期や高麗朝あたりからすでに、
「東方礼儀ノ国」
 であった。つまり中国的原理―礼教―をもって国家・社会・家庭体制の原理としてきた。
という意味であり、中国をもって儒教的宗主国としてきた。
 つまり国家として礼教の秩序をもっているから同原理の中国としては、
「朝鮮は安全である」
 という感じだったにちがいない。宗主国である中国への礼を紊(みだ)す―たとえば侵略―などということは朝鮮はしない。
朝鮮もまた、儒教原理をもって中国を本家として立てているかぎり「中国が攻めてくることはない」という安心感があった。
防衛のむずかしい半島国家としてはこれが最良の生き方であったろう。そして礼教という絶対原理(とくに李朝)で国内を順化しておくと内乱のおきる可能性がすくなく、これほどいいことはなかった。

P220
つまり朝鮮にとって、政治的地震の震源はつねに中国にある。中国大陸に強大な統一帝国がうまれると朝鮮の独立はおびやかされ、中国大陸が四分五裂すると、朝鮮は息をつく。朝鮮半島に、政治的には劇的な、そして文化的なきらびやかな「三国鼎立時代」が現出するにいたるのは、中国が統一されていなかったからであった。

街道をゆく〈2〉韓のくに紀行 (1978年)

街道をゆく〈2〉韓のくに紀行 (1978年)

  • 作者: 司馬 遼太郎
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2020/06/17
  • メディア: -


P180
佐藤 韓国の朴槿恵大統領からすれば、ロシアやアメリカや日本は、中国の本当の恐ろしさを知らない。朝鮮民族が中国のすぐ傍にいながら同化されずにやってこれたのは、決定的な喧嘩をしなかったからなんだ、と考えているはずです。歴史をふり返ると、日本と朝鮮が単独で戦争したことはないのです。
 池上 その通りだ。元寇のときだってそうです。
 佐藤 元と高麗の連合軍ですから。これは元韓国大使の小倉和夫さんの「日本のアジア外交」の指摘を読んで初めて気づいたのですが、日本が戦ったのは、いつも中朝連合軍。歴史上、一度も、朝鮮半島の単独政権と戦ったことはない。
「過去二〇〇〇年近くの間に、日本と中国は、五回戦争を行った。唐と日本の戦争(白村江または錦江の戦い)、元寇(蒙古の日本進攻)、明軍との戦い(秀吉の朝鮮進攻と明の介入による戦闘)、一九世紀の日清戦争、一九三〇年代以降の日中戦争の五回である。
 これらの戦争の背景を分析してみると、現在の世代が教訓として学ぶべきことが、すくなくとも三つあることにきづく。
 一つは、いずれの戦争も、その始まりは、朝鮮半島における勢力争いだったことである。
一九三〇年代の日中戦争は、満洲(東北地方)の権益の問題が、導火線であるようにも見えるが、その背後には、日本の朝鮮半島支配の安定化(朝鮮独立運動の阻止と日本における革新勢力の台頭阻止)という、歴史的流れがあった。
 このことは、朝鮮問題についての日中対話が、現在及び将来において、いかに重要であるかを物語っている」(「日本のアジア外交―二千年の系譜」藤原書店、二二三~二二四頁)
 そう考えると、やはり中国といかにうまくやるかということが、韓国の生き残りにとって死活問題になります。朴槿恵はそう気づいているのでしょう。
 池上 中国が経済力においても軍事力においても強くなる一方、アメリカの力は弱くなっています。きたちょうせんの核開発も結局、アメリカには止められなかった。韓国の安全保障は、アメリカでなく中国に頼んだ方がいいと思っているかもしれません。
 二〇〇九年、日本と韓国は安全保障上の関係強化のための軍事協定を結ぶ方向で協議を進めていましたが、調印のわずか一時間前に韓国がキャンセルしました。中国から「日本と新たな軍事協定を結ぶな」と脅されたのです。
朝鮮戦争では、多くの韓国人が中国軍によって殺されています。本来なら中国に謝罪要求や責任追及してもいいはずですが、中国に対してそんな感情を抱いていない。これが韓国の「事大主義(小が大に事(つか)える)」ですね。
韓国は、歴史上、長い間、中国に「事大」し、中国の臣となることで生き延びてきましたから、今も大国・中国の懐に抱かれているのが、心地よいのでしょう。

P182
佐藤 つまり東アジアの秩序が、冷戦よりもはるか昔に戻っているのです。歴史になぞらえると、南北朝鮮は、三国時代の新羅と高句麗の対立と見ることもできます。あるいは、北朝鮮が渤海だと考えたほうがいいかもしれません。
新羅は中国に朝貢していましたが、渤海は日本に朝貢していました。朝鮮半島に統一王朝がない状況で、渤海がなぜ日本に安全保障を求めてきたか。

新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方
池上 彰(著), 佐藤 優(著)
文藝春秋 (2014/11/20)



新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 (文春新書)

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  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
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  • メディア: Kindle版



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