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対日批判の政治利用 [国際社会]

 さて、井上博道君である。
 かれは駕洛国の王陵に感動し、そのまま陵域を去りかね、この異国の古代王の霊をなぐさめるべく施餓鬼のお経をよんだほどに心の優しい人だが、かれの優しさは、この慶州仏国寺の松林ではさんざんであった。
「なぜ写真をとるのか」
 と、歌垣のなかから、この一群の指導者らしい人物から突っかかられたということは、さきにのべた。
その人物だけがこの松林のふんいきとはかけはなれていて、かれだけが背広を着、彼だけが工業高校出らしい風貌をもち、かれだけが井上君に対して細かくつめたく光る視線を絶えずむけていたらしい。
 それまで井上君は、あちこちの輪にまじって踊っていたというのである。井上君はすぐ踊りをおぼえた。
たれもこのまるい肉付きの日本人(イルボン・サラム)を快く受け入れ、一つの空気のなかで踊った。
 ところが、背広氏だけはゆるさなかった。なぜなら踊りに熱中していた井上君がときどき写真をとることを思い出し、ときどきシャッターを押した。それが、背広氏の気に障ったのである。
「また日本で悪宣伝をするつもりか」
 と、眼球まで赤く充血させて、背広氏は怒ったのである。すべて韓国語であった。勇敢なミセス・イムが足早に背広氏に近づき、語尾の美しいソウル言葉でなにを誤解しているのか、ときいた。
「誤解なんぞはしとらん」
と、私は韓国語がよくわからないから、かれの血相からみてそう叫んでいるようであった。
あるいはもっとひどいことをいっているのかもしれない。 背広氏は、かつての大統領李承晩(イ・スンマン)
の反日教育で徹底的にきたえられた世代に属しているようであり、一個の観念が、井上君をみることによって爆発したらしい。
~中略~
 といって、井上君がべつに不都合なふるまいをしたわけではない。ただ背広氏の頭には強烈な日本人観が充満しており、その観念が、たまたまこの大田舎で日本人を見たということでごく図式的に亀裂し、導火線に火がつき、ついに井上君のシャッター音を聞くに及んで大爆発を遂げてしまったというわけで、この種の観念による大爆発という精神体質は、おなじ東アジアでも漢民族にはあまりなく、おたがいツングース人種に多い。
 背広氏は、五度は繰りかえした。井上君を罵倒すると踊りの輪にもどってゆき、またやってきてはどなるというふうで、そういう所作を繰りかえすうちに口もとがゆがみ、顔がいびつになってしまったようであった。
~中略~
 ところがその背広氏が井上君に噛みついている間、踊りの中にいる杖鼓たたきのえびす顔の男性が、井上君のほうにむかって、何度もウィンクを送っていた。
 ―構うな、気にしなさんなよ。
 という意味であることは、われわれによくわかった。同時に私は、
「これはどうやら日韓問題ではありませんね」
と、ミセス・イムにいった。国内の選挙問題であるようで、たまたま私どもがこの松林にいるこの時期が国会議員選挙の真最中だったのである。背広氏はおそらく某候補の運動員として部落中の有権者をひき具(ぐ)してこの松林に野遊びにきているというふうであり、井上君にどなることによって有権者たちになにがしかの感銘をあたえようとしている様子であった。


街道をゆく (2)
司馬 遼太郎(著) 
朝日新聞社 (1978/10)
P103





DSC_0600 (Small).JPG鶴林寺 (加古川市)


 朴槿恵韓国大統領は、「日本にされたことは千年忘れない」と宣言している。本気ではなかろう。一方で、自分が加害者の側に立つベトナムでは口をつぐむ。これに対して日本の論者は「ダブルスタンダードだ」と批判する。事実である。
 しかし、事実を突きつけたくらいで歴史問題は解決すると思っているのが、日本人の甘さである。韓国人が改心するとでも思っているのか。~中略~
 朴槿恵に限らず、事あるごとに「歴史問題」「恨み」を持ち出す「恨(ハン)の国」とも言われる韓国にしても、「千年恨む」などと本気で考えているとは思えない。単なるおおげさな比喩であろう。
 日本人は本気で「七百年恨み続ける」ことの意味をわかっていない。韓国人もまた、それを理解していない。いずれも恨みの深刻さを認識していないのだが、幼稚な発言を繰り返す韓国を甘やかしている日本の方こそ問題である。
韓国のほうに非があり、韓国のほうが愚かなのだが、それを咎め立てできない日本のほうが愚かであり非がある、とされるのが国際社会である。

日本人だけが知らない「本当の世界史」
倉山 満 (著)
PHP研究所 (2016/4/3)
P37










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