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共感することは良いこと? [医学]

P87
トラウマはすでに日常語となり、自らのうちにトラウマらしきものを見出し、自分をPTSD患者だと規定する者まで現れるようになった。
こういった世の流れからか、患者の内なるトラウマに”敏感”な治療者も増えつつあるように思われる。すなわち、患者の「心的現実」のうちに深く入り込みすぎるさまが、ここかしこで見受けられるようになった。
 一般に、治療者が患者と<共感>することは、もっぱら良いこととして捉えられている。 しかし本当にそうなのだろうか。

P89
 患者が治療者に語る言葉は、もちろん大変重要である。しかし、患者が治療者に切実にその「心的現実」を伝えようとするからといって、治療者はそれを額面どおり受け取るべきではない。治療者が望む筋立てで、患者の「心的現実」を変更させてゆく危険性さえあるのだから。
 原則として、臨床の場で患者の「心的現実」を取り扱う際、夢の場合と同様、その内容自体よりもどこに強度がおかれているかが重要である。

精神科医になる―患者を“わかる”ということ
熊木 徹夫 (著)
中央公論新社 (2004/05)

精神科医になる―患者を“わかる”ということ (中公新書)

精神科医になる―患者を“わかる”ということ (中公新書)

  • 作者: 熊木 徹夫
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2004/05/01
  • メディア: 新書


DSC_4724 (Small).JPG求菩提山


「相手の気持ちを尊重する」といった言い回しには、罠がある。なぜなら、相手の判断能力が必ずしも十分とはいえないのだから。
相手の言いなりなることイコール相手を尊重することにはならない。えてして「気持ちを尊重したのだから」といった言い回しが、我々自身の思考停止の言い訳となってしまいかねないことに注意したい。
 だが、「我々の言うことさえ聞いていれば間違いないのだから、おとなしく従いなさい」といった態度もまた放漫であろう。相手の言いなりにならずに強硬手段に出れば、おそらく相手から恨まれることになるだろう。
けれども、そのことを自覚したうえで、なお相手の意向に添わない処遇を実行せざるをえない場面はありうる。そのときは、専門家としての自負に賭けるしかないではないか。

はじめての精神科―援助者必携
春日 武彦 (著)
医学書院; 第2版 (2011/12)
P157



 このように人間は、話を聴くとその内容にのめり込み、感情移入していきます。話を聴いてもらうと、、気持ちが少しはすっきりするというのは、自分の思いに聴き手が反応し、共感を示してくれるからです。悲しくつらいことであれ、嬉しく喜ばしいことであれ、聴き手が一緒に悲しんだり、喜んだりするのが、話し手にとって大きな支えになるからこころが落ち着いていくのです。
 しかし、精神科診療のなかでの聴き手は。話し手の感情を受容する一方で、醒めた目で治療として適切な方法は何かを見極めなければなりません。一緒になって、喜んだり、悲しんだりするだけでは、治療的な働きかけができるわけではないのです。
重い話を聴いても沈んではいられない、嬉しい話を聴いても喜んでばかりいられないというのが、精神科医であり、心理士なのです。
 このような面接を行っているのですから、疲れないはずはありません。長い診療時間の後には、ぐったりするばかりか、何も考えたくないという気持ちになります。

精神科医はどのように話を聴くのか
藤本 修 (著)
平凡社 (2010/12/11)
P154


P250
 思いやりのある人のほうが看護師としてふさわしい。そんな風に考える人が多いのではないだろうか? 思いやりに近い行動経済学の概念に利他性がある。利他性は、他人の喜びを自分の喜びのように感じたり、他人を支援する行為そのものから自分の喜びを見出したりするような性質のことだ。
そのような思いやりに近い性質を持つ看護師の方が、様々な局面で患者の立場に立って、より親身に看護してくれるはずだ、と考えるのは自然なことだ。
~中略~
 利他的な人のほうが看護師にふさわしい。本当にそなのだろうか?著者らの研究グループは、利他的な看護師、特に純粋な利他性という種類の利他性を持つ看護師が実は心理的にバーンアウトしやすいことを、看護師に対し行ったアンケート調査をデータ分析して明らかにした(1)。
バーンアウトは、長期間、自分の対処能力を超えるような過度のストレスを受け続けたときに意欲などが減退し、疲れ果ててしまう症状のことを意味する。
「燃え尽き症候群」とも呼ばれ、この症状が強い看護師は離職しやすいことがよく知られている。ある種類の利他性をもつ看護師が本当にバーンアウトしやすいのだとすれば、その結果は「利他的な人のほうが看護師としてふさわしい」という通説に疑問符が投げかけられるもいのだろう。

P252
カリフォルニア大学サンディエゴ校のジェームス・アンドレオーニは、純粋な利他性、ウォーム・グローという2種類の利他性があると説明した。(2)
純粋に利他性な人とは、他人の喜びを自分の喜びとして感じ、他人の悲しみを自分の悲しみとして感じるというように、共感特性の強い人のことだ。
このタイプの利他性をもつ看護師は、看護行為によって患者の苦しみが和らぐことを通して自分自身の喜びを感じる、と考えられる。
一方で、ウォーム・グローをもつ人は、看護行為を行っている自分が好きというように、看護行為そのものから自分自身の喜びを見出す。
このタイプの利他性をもつ看護師の喜びは、患者の状態が良くなったり悪くなったりすることから影響を受けにくい、と感がえられる。
 なぜ、純粋に利他的な看護師ほどバーンアウトしやすいのだろうか?著者らは次のように解釈している。純粋に利他的な看護師は、患者の喜びを自分の喜びとして感じ、患者の悲しみを自分の悲しみとして感じてしまう。だから、患者の死や症状の悪化に直面したときに、患者の状態と連動して看護師自身のメンタリティまで悪化してしまうのでないか、という解釈である。

P254
 実は、過去に社会学・心理学・脳科学の分野で行なわれた研究から、著者らの研究結果に近い結果を見つけることができる。 例えば、「仕事を通して他者を手助けしたいから」「仕事を通して他者にとってよいことをするのが重要だから」という他者配慮の動機をもって看護師として働いている人ほど、バーンアウトしやすいようだ(6)。
患者の感情の変化が自分にも伝染してしまったり、患者の苦痛を想像したりする傾向の強い看護師ほど、バーンアウトしやすいこともわかっている(7)。
また、ある脳科学研究は、人の共感特性関わる脳内活動とバーンアウトの深刻度の間には強い相関関係があることを明らかにしている(8)。これらの結果は、他人の喜びを自分の喜びとして感じる看護師ほっどバーンアウトしやすい、とういう著者らの研究結果と共通する部分が多い。

P255
 さらに、純粋に利他的な看護師はいずれの利他性ももたない看護師に比べ、睡眠薬や精神安定剤・抗うつ剤を常用している可能性が高い、という結果を発見して著者らは驚いた。

医療現場の行動経済学: すれ違う医者と患者
大竹 文雄 (著), 平井 啓 (著)
東洋経済新報社 (2018/7/27)




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