かゆみ [雑学]
「かゆみ」は、一六六〇年にドイツの医師ハーフェンレファー(Hafenreffer S)によって、次のように定義された。
「掻きたいという衝動を引き起す不快な感覚」。つまり、「かゆみ」には「掻きたい」という衝動が必ずついてくる。「かゆみ]と「掻く」はセットというわけだ。
~中略~ 「かゆみ」を表す漢字には「瘙」と「痒」がある。
皮膚科の学会では、これを合わせた「瘙痒(そうよう)」という言葉が一般的で、英語の「Itch(ing)」はすべて「瘙痒」と訳されている。最近は「掻痒」と書く変換ソフトも多いが、これは正式な表記ではない。
~中略~ つまり「瘙」とは、かゆいこと自体を表している字といってもいいだろう。
~中略~
さてこの「瘙」と「掻」には、どちらにも「蚤(のみ)」が入っている。「蚤」がやまいだれの中に入れば「瘙」で、かゆいことを意味し、てへんが付けば「掻」で、それを手で取り除くことを意味する。
おそらく昔の人にとって一番わかりやすいかゆみの原因が、蚤などの虫だったのだろう。
なぜ皮膚はかゆくなるのか
菊池 新(著)
PHP研究所 (2014/10/16)
P21
P32
二〇〇九年、fMRIを用いて電気的なかゆみを与えた場合に、痛み刺激では反応しない「頭頂葉内側部楔前部」という大脳の一部が特異的に反応していることがわかった。
この部位が、かゆみを感じる際に重要な働きをしていることが判明したことで、伝達経路だけでなく、脳内の反応においても、「かゆみと痛みは異なる」ということが証明されたことになる。
ちなみに「痛み」では、主に大脳の「二次体性感覚野」という部分が反応する。
P15
二〇一四年、機能的MRI(fMRI)という機器を使って、かゆい部分を搔いたときに、「報酬系」と呼ばれる脳の部位(中脳や線条体)が強く反応していることがわかった。報酬系とは読んで字のごとく、自分が褒美をもらう感覚が、起こるときに反応する脳の部位である。つまり「掻くことはご褒美につながる」と脳が認識しているから、気持ちよく掻いてしまうのだ。
しかし、たとえばアトピーで長年苦しんでいるような人の中には、掻いて快感を得ることを、体と脳が覚えてしまっている場合がある。そして、かゆくないときでも快感を求めて無意識のうちに掻いてしまい、それによって症状を悪化させ、結果いつまでも治らない・・・・ということもある。
掻いちゃいけない、触っちゃいけないのに、掻けばものすごく気持ちいい。なんとも理不尽な感覚だ。
P17
そう、かゆみとは、痛みを与えることで一時的に忘れられる感覚なのだ。痛みでかゆみから逃れられるというのは、経験的に知っている人も多いだろう。しかし、科学的に裏付けがなされたのは、比較的最近のことである。
皮膚の「痛みレセプター(受容体)が刺激を受けると、これにつながった神経線維が興奮し「痛みがかゆみを抑制する」ということがわかった。
P19
蚊などの虫に刺されてかゆくなったときに、市販のかゆみ止めを塗る人も多いだろう。大抵の商品は、ミントやハッカなどのメントールが働いて、スーッと気持ちよくなり、かゆみが引いていくように感じられる。実はこれも同じメカニズムが働いているのだ。
市販のかゆみ止めには、ヒリヒリしたり、スースーしたりする刺戟成分が含まれ、それがごく軽い痛みや冷感となって患部を刺激し続ける。手で掻くよりは皮膚へのダメージが少ないので、虫刺されなどの「原因がはっきりしていて、放っておいてもそのうち治ってしまうような症状」には効果的である。
自然治癒するまでの間、かゆみを抑えてくれるので、掻いて悪化させることがないのだから。
P99
皮膚に無数に存在するレセプターには、温度を感知するものがある。それも、温度帯によって活動するものが違うのだ。
~中略~
この八度から二八度に反応するレセプターの名前が、前の項で出てきた「TRPM8]である。
おそらく複数のレセプターが同時に働くことによって、人は温度を感知してしるのだろう。TRPM8が単体で反応しているなら「冷たい」あるいは[涼しい」、一七度以下のレセプター(TRPM1)と同時なら「冷たい」、二七度から三五度のレセプター(TRPM4)と同時なら「涼しくて快適だ」といった具合にだ。~中略~
メントールは、実はTRPM8に結合して脳に信号を送る。
実際に温度は低くないのに、脳は「冷たい」と誤解してしまうのだ。
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