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医者は汚れ役 [医学]

養老 前略~ 
 それで「偉い」という話になりますが、政治家が典型的にそうですけど、あれは「汚れ役」なんですよね、別のいい方すると。ところが、一般人のほうで、選挙した相手を自分が汚れ役をあいつにやらしているっていう意識が消えているんですよ。
 安楽死問題が典型的にそうでしょ。みんなが、周りが、もうあの人亡くなってもいいんじゃないかな、本人も苦しそうだから、その場合は死んでいいんじゃないのって思ったりする。でも、その「汚れ役」を医者がやった瞬間に、自分が汚れ役やらしているっていう、後ろめたさが消えてしまうんですよね。
中川 なるほどね。
養老 それは正義でも倫理の問題でもないんですよね。だから僕は、そこに偉い人を立てるんですけど、それは本当に「ご苦労さん」っていう感じなんですよ。
中川 医者もそういうところがありますしね。
養老 お医者さんは「ご苦労さん」なんです。患者さんのほうがそれがわからなくなると医療訴訟になってくるんですよ。
医者は楽してやがるとか、どこかに何か裏があるんじゃないかと思ったりしているかもしれないけど、とんでもないです。それは誤解だって。
「そんなこというんなら、あんた医者やりな」っていうんですよ。あんまりうるさいこという人には。「やってみな」って。そうでしょ。どれだけ立派な医者ができるんだと。
だって、自分がお医者さんにやらせていることは一種の汚れ役なんだから。

自分を生ききる -日本のがん治療と死生観
中川恵一 (著), 養老孟司 (著)
小学館 (2005/8/10)
P90




DSC_1667 (Small).JPG吉野ヶ里遺跡



 わたしはときおりケース検討会に呼ばれることがある。せっかく呼ばれたのだから、何か気の利いた指摘をしたり、誰もが深くうなずきたくなるような方策を伝授したいとおもう。
しかし実際にはそんなことなどできない。すでに選択肢は絞られており、結論はほぼ見えているのが相場である。
「それでいいんです」
と保証を与え宣言する役目なのである、けっきょくのところ。
 精神科医なのだから視点も立場も違うが、そうした者から見ても勘違いや盲点がないことを請け合うためなのである。仮に「援助者たちは、手をこまねいていただけだった」といった非難の声が上がったとしても、医師を含めてさまざまな職種が協議をしていたとなれば、反論もしやすくなろう。
 待つしかない、多少なりとも実際に不幸(トラブル)が訪れないと手出しができない場合がある―そうしたケースが少なからず存在し、そのときにはいかに腹を据えて事態を見守っていくか。
 援助者の実力は、おそらくそうしたときに問われるだろう。なぜなら、待つためには度胸がいる。もちろん、相応の経験や今までの手応えにもとづいての自信である(だから、ただの図々しさとは違う)。また他人から詰問されたり咎(とが)め立てされたときにも、自分の方針をきちんと説明できるだけの頭の整理がついているということである。

はじめての精神科―援助者必携
春日 武彦 (著)
医学書院; 第2版 (2011/12)
P034





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