銀行 [社会]
事業家がよく銀行へ行って腹を立てるのはそれだ。「おれはこういうことをやるんだから金を貸せ」というと、さっそく審査部、調査部へ回して、この仕事は安全か、安全でないか、有利か有利でないかということを一ヵ月も二ヶ月も調べる。こちらは明日にも金が欲しいのである。
いわゆる気合だ、機をつかんでやらなければ仕事にならない。この安全第一主義はのんべんだらりと調べて、「こういう仕事は当行としてはまだ手がけたことがない。先例がないからお断り申しあげる」などと、三ヶ月も待たせて断ったりする。
ところが出来上がった大企業などに対しては争って金を貸したがる。絶対に貸し倒れはないから安全だし、そして儲かる。だからそれほど必要のないところへも「貸してやるから使わないか、使わないか」という。本当に差し迫って必要なところへは一向に金を貸さない。
そこで「銀行とは何ぞや。金の要らぬ者に金を貸して、要るところへ貸さないところを銀行という」なんて定義がアメリカにあるところをみると、どこも同じだろうと思う。
知命と立命―人間学講話
安岡 正篤 (著)
プレジデント社 (1991/05))
P104
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