同調性バイアス [言葉]
「お前さんは、どうして息子さんが錯乱しているとわかるのかね。今、天下の人々はみな是非の分別に惑い、利害にくらんでいる。同じ病の者が多いと、それと気づく者はいなくなる。それに、一人の人が錯乱しても、一家をことごとく錯乱させることにはならず、一郷をことごとく錯乱させることにはならず、一郷の者が錯乱しても、一国をことごとく錯乱させることにはならず、天下の者がことごとく錯乱したならば、錯乱させるものは何もないではないか。
もし天下の人々の心がことごとく息子さんのようになっていたとすれば、お前さんのほうこそ、錯乱しているということになるのだ。
そうなれば、哀楽、声色、匂い、是非など、誰が正すことができようか。このわたしの言葉だって、錯乱していないとは言い切れない。まして、魯の君主など、錯乱の最たるものだ。
どうして人の錯乱を解くことができようか。お前さんその食糧を担いで、早く帰るがよい」
(「列子」周穆王)
老荘思想の心理学
叢 小榕 (著)
新潮社 (2013/02)
P152
P155
火災が発生していても、津波警報が出ていても、人々は避難しようとせず、現場に止まり、回避できたはずの被害を蒙ってしまうというような事例も報じられている。
「みんなが逃げないから自分も逃げなくて大丈夫だ」という「常識」を信じて疑わないのが原因の一つらしい。
このように、多数の他者と同一の行動をとる現象を「同調性バイアス」という。
~中略~
常識に従えば安心だというのは、昔も今も変わらない。しかも、どんなに不条理な常識でも、世間一般に常識として受け入れられれば、それと相反するものは無条件に非常識と見なされる。
だから、老子は「もし天下の人々の心がことごとく息子さんのようになっていたとすれば、お前さんの方こそ、錯乱しているということになるのだ」という。
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