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水産物の流通 [社会]


 まず漁業者が漁獲物を漁港に水揚げします。それを漁協が受け取り、漁港内にある荷捌(にさば)き所で競売(セリか入札)を行います。
競り合うのは「買受人」と呼ばれる業者たちで、干物や缶詰などの原料を仕入れる加工業者、地元の消費者に販売する小売店、他に転売する「仲買人」などがいます。セリでは他の業者よりも高い価格を提示しないと欲しいものが買えないので、彼らの競争はシビアです。
 漁業者はセリで売ったお金をもらい、そのうち5%程度を手数料として漁協に支払います。~中略~ ここまでが「産地卸売市場」になります。
 さて店売目的で水産物を購入した仲買人のうち、消費地に水産物を出荷していく業者を特に「出荷業者」と呼びます。出荷業者はセリで落札した水産物を「目利き」し、それが一番高く売れそうな全国の「消費地卸売市場へと出荷します。彼らは全国各地の消費地卸売市場における相場情報を常時収集し、その魚をどの市場に出荷すれば一番高く売れそうか、を的確に判断します。
 出荷された魚を消費地卸売市場で受け取るのが「荷受」(卸売会社)です。荷受は全国の出荷業者から、消費地で食べられる大量かつ多種多様な水産物を毎日集めています。例えば築地市場は、東京都民のために魚を集める国内最大の消費地卸売市場です。
 そこで二回目の競売が行なわれます。出荷業者はセリで決まった売上金額を手に入れますが、そのうち5~7%程度を、セリの手数料として荷受に支払います。~中略~
 消費地卸売市場での競売に参加する業者の多くは「仲卸」と呼ばれる業種です。仲卸は卸売市場内に小さな店舗を構え、競り落とした水産物をそこで販売します。一般人がそこで買うことは禁じられていて、許可を与えられた「買出人」(小売業者や寿司屋などの飲食店)だけが、仲卸の店舗で水産物を買うことができます。
~中略~
 各業種の中で厳しい競争があることで高い品質と公正な価格が守られ、経路全体としての効率性が高められています。漁師と個々の消費者の双方にとって信頼できる公共インフラと言えるでしょう。多くの食品流通研究者に「近代の傑作」(例えば秋谷重男「中央卸売市場」、日経新書)と称される所以でもあります。

日本人が知らない漁業の大問題
佐野 雅昭 (著)
新潮社 (2015/3/14)
P97


日本人が知らない漁業の大問題 (新潮新書)

日本人が知らない漁業の大問題 (新潮新書)

  • 作者: 佐野 雅昭
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/03/14
  • メディア: 新書

 



IMG_0111 (Small).JPG旭川市旭山動物園

P103
中抜き流通や場外流通は、実際には水産物の豊かさを犠牲にすることで、経営的に効率化を果たそうとするののです。決してそれが優れているわけではないのです。それに対応できる大型産地にはメリットを与えますが、卸売市場流通に依存しないと存立できない零細な沿岸漁業にとってはデメリットとなります。

P107
 卸売市場流通では日常的にサンプル検査が行なわれ、衛生的に基準を満たさないものは排除されてきました。またどの業種・業態においても専門知識と的確なハンドリングのノウハウ、高いモラルとプライドを持った魚の専門家が水産物を扱い、刺身で食べることを当然の前提とした迅速な流通と適切な品温管理を行っています。彼らはまた、豊富な知識と柔軟な技能によってどんな魚でも的確に扱うことができます。
 だから、これだけいろんな魚種が刺身で食べられていますが、お腹をこわす人は全国的にも年間を通してほとんどいないのです。これ自体が奇跡的で、世界中ここまで柔軟で高度な流通システムは他にありません。


日本人が知らない漁業の大問題 (新潮新書)

日本人が知らない漁業の大問題 (新潮新書)

  • 作者: 佐野 雅昭
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/03/14
  • メディア: 新書

 


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