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禅というもの [宗教]


それで(住人注;仏教の)形式主義というのはその一方を代表している。それに反対して達磨が出て来た。
そしてこの達磨が出て来たということは形式主義でなくして、今度は精神主義、主知主義でもなく論理ということでもなくて、論理以外のところに、人間生活のいきた原理を捉えなければならぬということを示したものである。その主張がすなわち禅なのである。

禅とは何か
鈴木 大拙
角川書店; 改訂版 (1999/03)
P108


新版 禅とは何か (角川ソフィア文庫)

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  • 作者: 鈴木 大拙
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/01/25
  • メディア: Kindle版

 


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P109
この達磨というものが、いかにそのころの形式主義、主知主義に反対したものかということが明らかである。禅宗の方では、教外別伝、不立文字ということを唱えるであろう。これはちょうどその形式主義の裏、その主知主義の裏を唱えたのである。
 そこでこの教外別伝、不立文字ということを、今日の哲学者、宗教者の使う言葉をもって言うと、神秘的経験ということである。
教えの外に別に伝えたというので、いろいろと別な教えはないけれども、そういうものによらないで別に釈迦の精神を伝える。それを神秘主義と言うのであるが、それを教外別伝、不立文字という言葉で言い表したのである。
これを達磨が伝えたということになる。

P111
 禅というのは、すなわち神秘的経験ということである。神秘的経験とはどういうことになるかというと、人の心の働きには理屈で説くことのできない一つの経験がある。
その経験というものを経て来なければ人間というものの生命がのらぬ。形式になってしまう。その経験にふれたならば、形式そのものさえも変わって来る。そして生命が流れる。その経験ということのみに力を集中してかかろうというのが禅である。
禅宗というものはお経を頼らぬ、教外別伝というので禅宗は経典を無視したものである。

P114
そこで一方に論理的なものがなければならぬと同時に、一方には主観的神秘的経験というものがなければならぬということは、また当然の帰結なる。
これが両々相まって行かねばならぬ。が、両方がいつも並行して行くものでない。
そこでいずれを重んずるかというと、結局のところは、やはり、自分が出発点となり、合わせて帰着点となるのである。つまりはそれ自身本来の性質の傾向、すなわち主観に決することになる。
したがって禅の極致は、心理的方面になければならぬ。すなわち神秘的体験の上になければならぬということである。
それで禅宗とは、どんなものかというと、これは哲学では断じてない、その基礎は心理学の上におかれているものと言ってよい。
この心理的体験というところに、禅の生命がある。これが禅の根本である。それがすなわち教化ということである。
もう一度言うと、禅はいつも自分に戻るということになる。

P116
つまりわれわれの心というものは、自覚しているだけでなくして、その心の働きというものは、自分が思っているそれ以外のところにまで働いて行くものだということなのである。
それゆえ、いつも自分のこうと自覚している範囲だけに、意識が限られているのではなくして、ずっと、その上に、その下に広がっているというのである。

P121
公案は表面、論理に陥るようであるけれど、畢竟は心理的な結論で、それで落ち着くものと私は思う。
われわれのこの心理的、神秘的体験を、言葉に言い現わすというときに、公案となって出る。
公案というものは論理から出てきたものでなくして、われわれの心理的体験から出たものである。それをするには、意識の上に現れているところの、すべてのものを斥けてしまって、そしてその下に突き込んで行くことができるときに、その体験が生ずるのである。
それで禅は論理の上に基礎をおくというよりも、心理的に進んで行かなければならぬと信ずるのである。

P224
自覚聖知ということは、どんな意味か。それは自分で体験するということである。人から教えられないで、自分でやるということである。
自分でこうだと、一つのことに気がつく、これが禅宗の根本である。
それが楞伽経(りょうがきょう)の自覚聖知ということを、本に立てているゆえんである。
体験を重んじで、理屈は重んじない。自覚というところに、禅宗の落ち着くところがあるであるから、それを哲学とか、心理学という風に言うならば、楞伽経はなくてもいい。他の経でさしつかえないのである。楞伽経でなければならない。ことに達磨が楞伽経を持ちだしたというのは、この自覚聖知にあるということになるのである。

新版 禅とは何か (角川ソフィア文庫)

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