キレる理由 [雑学]
認知症の人は、自分と世界をつなぐ認知能力が失われるにつれ、認知機能を用いざるを得ない局面で、きわめて不安になります。
不安はすぐ怒る(易怒性)方向に現れたり、仮想現実にひきこもる現症に変容したりします。しかし、その根底にある心理的ダイナミズムは、世界とつながりえない状況における自己防衛的対応であるようです。
若い人でも世界とのつながり形成不全がある場合、やはり同様の現象が観察されます。
軽度のものならば、「キレやすさ」として多くの日本人に認められるようになりました。
思考、判断、感情表出のような行為において、かつての日本人のように「他者の意向」を深層心理的に組み入れておらず、行為を決める関係項は自分の中にしかありません。
過去の乏しい経験に基づく規範的自制なぞは、筋金入りの「つながりの自己」からみるとひどく弱々しいものです。
どのように判断し、行動すべきか判らない状況で生ずる不安が、すぐに「キレる」という行動に転化してしまうのは不思議ではないでしょう。
その能力がないのに、適切な判断と行動を迫られるときに起こる気持ちは、認知能力が衰えているのに認知機能を使うことを強制される場合に起こる起こる気持ちと同質です。
世界とのつながり形成不全がもっと進むと、自己防衛的対応もさらに顕在化します。
痴呆状態の仮想現実症候群に対応するのが、「若年性仮想現実症候群」とでも称すべき現象です。岡田尊司(たかし)氏が「脳内汚染」の中で記載したゲーム中毒の子どもたちは、そのような仮想現実の世界に生きています。(註⑲)。彼らには、自制心、持続的努力をする能力、他者への配慮の三側面の低下が顕著です。
「アトム的自己」の極めて未熟な姿ですが、他者とのつながりに関係する、大脳の腹内側前頭前野の機能不全があると推察されています。
「痴呆老人」は何を見ているか
大井 玄 (著)
新潮社 (2008/01)
P191
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