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空海でもうつになる  [養生]

 さて、3ケ月ほどで空海のうつ病が改善したのは、いくつかの可能性が考えられる。 第2には、うつ病は元々、自殺さえしなければ、6ヶ月程度で自然寛解するものである。症状が軽い場合には、状況が変わったり、休息を取ったりすることで、短期間で治るっ可能性も高い。
表現は適切ではないが、心の葛藤やトラウマ(心的外傷)などが長く続いて発症する重篤なうつ病ではなく、身体的な疲労に続くうつ病であったために、休息などによって短期間に回復した可能性である。
 第3に、懐かしい高雄山に戻れたという安堵感や親しい人たちとの再会も、うつ病の治癒機転に拍車をかけただろう。
 さらに、現代の欧米でうつ病に有効とされている「運動療法」や「マインドフルネス瞑想」という仏教の瞑想法なども、空海は修行のなかで、無意識のうちに行っていたのでなないだろうか。

空海に出会った精神科医: その生き方・死に方に現代を問う
保坂 隆 (著)
大法輪閣 (2017/1/11)
P117

空海に出会った精神科医: その生き方・死に方に現代を問う

空海に出会った精神科医: その生き方・死に方に現代を問う

  • 作者: 隆, 保坂
  • 出版社/メーカー: 大法輪閣
  • 発売日: 2017/01/11
  • メディア: 単行本

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P120
 言うまでもなく、執着気質の者がうつ病に罹患する契機は、「心身の過重労働」である。現代で言えば、残業続きで、心身の疲労が極限に達した際にうつ病に罹患するという「過労うつ病」である。
「死を予感させる言葉」を発する背景には、うつ病があり、この第2回目うつ病の背景には、空海40代の精力的な活動過多があったのではないかと考えたほうが自然である。

P121
このように空海は50代になっても、それまで同様に、非常に精力的な活動を続けていた。
 しかし、天長8年(831年)6月14日付の「疾(やまい)に嬰(かか)って上表して職を辞する奏上」に示されているように、空海は「5月30日に悪瘡(あくそう)が体に出て2週間経っても良くならない。そのため、何とぞ大僧都の職をお解きいただきたい。さらなるお願いは、密教をお捨てにならないようお願い申し上げます」という意味の奏上を突然に出したのである。
~中略~
 悪瘡とは、現代医学では「皮下深部の筋膜炎を伴う局所性ブドウ球菌性皮膚感染症」と呼ばれるものだと、宗教学者の正木晃氏は言う(正木晃「密教的生活のすすめ」 幻冬新書 2007年)。
しかも、天皇の前に出ることが憚(はばか)られるという意味を伝えたので、悪瘡は顔か頸部のように外から見えるところにあると指摘されている。(正木晃「立派な死」 文芸春秋 2005年)。
このような感染症は、免疫機能の低下と関係するものであり、ここは、うつ病によって免疫機能が低下し、悪瘡が出たと考えるべきである。これらは、精神が中枢神経を介して免疫系に影響を与えているという新しい研究分野である「精神神経免疫学」が、既に正しく指摘している現象であるからだ。
 しかし、いずれにしても、幸いなことに3ヵ月半後の9月下旬には活動を再開しているので、その疾患は急速に増悪し死に至ることもなかったし、空海のうつ病も経過したことになる。~中略~ このように、空海の3回目のうつ病も、短期間で完治しているのである。

P125
 空海は、最終的に死を意識して高野山に引き上げた後でも、真言宗教団と東寺・高野山の永続化を図るための方策を矢継ぎ早に打った。これが実に空海的な生き方なのだろう。
 空海は死を予期してからは、むしろ死の恐怖を超越し、やるべきことを優先的にやり、目標に達した。
 大事な点は、空海は、死を予期したことで、決してうつ病になっていないことである。むしろ現実的な行動が素早く取れるのである。それが空海なのだ。

P126
 自殺による死亡者数が14年間3万人肥え続け、やっと平成24年の集計で3万人以下になった。 平成25年の死因統計によれば、がんでなくなる方が最も多く、自殺で亡くなるのは、死因では第7位である(表1参照)。
 しかし、これを5歳間隔の年齢階級別にみてみると、なんと、15~49歳に限って言えば、自殺は死因の1位か2位を占めていることがわかる(表2参照)。最も生産的な年代では、死因の1位か2位を占めているのである。

P144
 空海のような天才でも、過重労働の末には「うつ病」になる。だから一般の人が「うつ病」になっても不思議なことではない・・・・・と、私は言いたいのである。
~中略~
 今は、効果的な抗うつ剤が、次から次へと開発され認可されているので、クリニックや病院を受診すると、すぐに処方箋を渡される。
 「国民皆保険」の日本人は病院が好きだし、薬を飲むのが好きだ。しかし、国民皆保険でない米国では、薬以外のことで予防したり、治療する工夫が多い。いわば「セルフケア」の文化である。
このなかで「運動療法」は、古くからうつ病への有効性が確認されているし、最近では、仏教の瞑想、特に「マインドフルネス瞑想」と呼ばれる瞑想法も、うつ治療の臨床に取り入れられてきている。
 仮に、空海がうつ病になったという仮説が正しいとした場合、抗うつ剤のないその時代、空海は密教の修業をしつつ、無意識のうちに「運動療法」や「マインドフルネス瞑想」に相当する行為を行ったにちがいない。
 「運動療法」や「マインドフルネス瞑想」がうつ病に有効に作用した、ということが、空海の3回のうつ病克服から学べるのではないか。

空海に出会った精神科医: その生き方・死に方に現代を問う

空海に出会った精神科医: その生き方・死に方に現代を問う

  • 作者: 隆, 保坂
  • 出版社/メーカー: 大法輪閣
  • 発売日: 2017/01/11
  • メディア: 単行本


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