認知症の最初期の人への対応 [医療]
家族によっては、失敗したお年寄りに向かって「また忘れたの?」「ぼけたんじゃない?」などと言う人もいますが、これは禁句です。
そうでなくても「何か変」な自分に不安を抱いているのですから、追いつめてはいけません。
むしろ基本は静かに見守りつつ、もし声をかけるなら、傷つかないように、否定しないように注意しながら、「こちらのほうがいいのでは?」と別の選択肢を示してはどうでしょう。あるいは、本人の気持ちの状態に応じて、フォローする程度にとどめたほうがいいと思います。
もうひとつ、認知症の最初期に特有の問題として、本人に認知症である(あるいはその疑いがある)ということを伝えるか否かという、「告知」の問題があります。言わなければ前へ進めない、だが伝えることで相手を傷つけるのはためらわれる―介護者はこのようなジレンマに陥りがちです。
~中略~
認知症と言っても、いきなり何もかも忘れてしまうわけではありませんし、先に書いたとおり、原因疾患によっては物忘れが比較的軽い認知症もあります。「何か変だ」と不安を感じている人にとって、やたらと告知するのは危険をともないかねません。病名を伝えるかどうかよりも、その人の不安感・恐怖感に寄り添って見守ることを、第一に考えた方がいいのではないでしょうか。
P147
ほかに、認知症の人は行動にも特徴が出やすいので、介護者は注意して見てください。たとえば、認知症の初期の人は人前ではしっかりしていて見分けがつかないとよく言われますが、私の経験では30分もたつとそわそわし始め、畳を触ったり、座布団の端をいじったりと、落ち着かなくなることが多いように思います。 いわば長時間”いい子”状態でいるのに耐えられなくなるのでしょう。
認知症の人がスッと落ち着く言葉かけ
右馬埜 節子 (著)
講談社 (2016/3/23)
P81
記憶障害が現れ、今までできてきたことができなくなってしまった認知症の人に、つい「しっかりしてよ」「それは違うでしょ」「どうしてできないの」と言いたくなるのは当然です。
「がんばって」と励ますつもりで、もとの状態に戻ってほしいという願いがあって、つい口調がきつくなってしまう。認知症介護の現場で起こりがちなケースです。
しかし、そうした「つい」は、ひとつ間違えると、認知症の本人に「叱られている」「バカにされている」と受け取られてしまいます。そしてそのストレスがネガティブな感情を引き起こし、妄想や暴力、暴言といった周辺症状の表出につながる恐れもあります。
認知症が進むと理解力や判断力は次第に低下していきますが、「楽しい」とか「嬉しい」、「怖い」、とか「悲しい」といったそのときに覚えた快・不快の感情は変わらず、その記憶も長く残っていきます。
つまり怒鳴られたり、怒られたり、否定されたり、無理に説得されたりすると、「何を言われたか」「何と言って怒られたか」は覚えていなくても、「この人は怖い」「あの人は私を嫌なヤツだと思っている」といった感情は覚えているのです。
反対に、やさしく親切に接してくれる人のことは「良い人」「私のことを守ってくれるやさしい人」と感じて、その感情を忘れることはありません。たとえ、その「やさしい人」が自分の娘であることを忘れてしまったとしても。
さらに記憶力や認知能力は低下しても、本人の自尊心は変わりません。人としての尊厳は決して失われません。
家族と自分の気持ちがすーっと軽くなる 認知症のやさしい介護
板東 邦秋 (著)
ワニブックス (2017/1/24)
P97
家族と自分の気持ちがすーっと軽くなる 認知症のやさしい介護 (ワニプラス)
- 作者: 板東 邦秋
- 出版社/メーカー: ワニブックス
- 発売日: 2017/01/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
高齢者が「あれよ、あれ。ほら、ベランダにあるパンジーに差してある・・・・、なんだっけ? えっと」と言いつつ、「植物用液体肥料」がほしいとなっている。
このように明確に何かはわかっているけれども名前が分からない時は、単なる物忘れですので、あまり気にしなくてもいいです。年齢にかかわらずよくあるからです。
一方で、高齢者が「あれって言ったらあれのこと。しつこく聞かないで!」と怒ってしまうことがあります。この場合は問題です。認知症の前兆かもしれないからです。3)
なお、怒ってしまうのは、自分でも「あれ」が何だかわからなくなっており、そのことを指摘されるのが嫌だからです。
「せっかく聞いているのに、怒るなんてひどい人だ!」と思ってしまいますが、防衛反応として怒っているのです。誰でも自分がいろいろ忘れてしまっているというのは、受け入れたくないものです。
だから他人と会話する上で、一見成立するかのような取り繕いをします。よくあることで、「取り繕い反応」や「場合わせ反応」という名前までついています。4)
決して高齢者は、「わからないから、ごまかしてやろう」というように意図的にやっているわけではないのです。無意識に取り繕ってしまうのです。「あれ」「これ」が増えて、空虚な会話が続くこともあります。外来の現場でもよくあることです。
老人の取扱説明書
平松 類 (著)
SBクリエイティブ (2017/9/6)
P98
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