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出生前の栄養状態で人生が決まる [雑学]

 日本学術会議の提言によれば、日本でもいくつかの疫学的研究が行なわれており、日本人においても、胎児期の低栄養が将来的なメタボリックシンドローム、高脂血症、インシュリン抵抗性、2型糖尿病の要因になることが示されている2。
~中略~
 胎児期の栄養状態が、生まれてからの健康状態に大きな影響を与えるのが本当だとすれば、大人になってからの経済状態にも影響を与える可能性があるかもしれない。健康は、経済状況を大きく左右するからだ。
 実際、出生時の体重とその後の社会経済状況との関係が、最近多くの経済学者によって研究されはじめている。なかでもコロンビア大学のカリー教授の展望論文は、衝撃的な内容である3。
この論文によれば、出生時体重が低いことと、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の発生率の高さ、教育水準の低さ等との間に相関があることが多くの研究で明らかにされているという。

競争と公平感―市場経済の本当のメリット
大竹 文雄 (著)
中央公論新社 (2010/3/1)
P84

競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書)

競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書)

  • 作者: 大竹 文雄
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2010/03/01
  • メディア: 新書

P86
 カリー教授は、貧困家庭の子供が貧困となり、その子どもも貧困になるという貧困の連鎖の原因を、遺伝ではなく、次のように説明している。
栄養状態の悪い妊婦から低体重児が生まれ、その子どもが育っても健康状態が悪く、所得が低くなる。所得が低い親となって、子どもを産むと低体重の子どもが生まれる。そうなうと、またその影響が子どもが大人になったときに現れるというのだ。
 ここで紹介した研究が正しいとすれば、日本における出生時体重の低下は将来、深刻な問題を引き起こすことになる。
日本では、貧困によって栄養が十分にとれない状況にはないにもかかわらず、出生時体重の低下が続いてきた。
この傾向は、すでに述べたように、若い女性の間のやせ願望が大きな要因になっている5。また、若い男性の失業率が高いと出生時体重が下がる傾向もある6。母親のストレスが影響するかもしれない。
これに加えて、日本学術会議(二〇〇八)では、妊娠女性の過度な体重増加抑制をその要因として指摘している。
産業医や助産師は今まで十数年にわたって妊娠中に体重が増えすぎないように指導してきたという。この指導は、たしかに妊娠中毒症を減少させ、母体と新生児の予後を大きく改善した。ところが、最近の研究は、妊娠の体重の過度な抑制は、大きな問題をもたらすことを明らかにしている。

P87
 ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のヘックマン教授は、就学後の教育の効率性を決めるのは就学前の教育であり、特に出生直後の教育環境が重要であることを、さまざまなデータを用いて実証的に明らかにしている7。
先に紹介した研究は、就学前どころか、出生前の栄養状態が、大人になってからの健康状態や経済状態に重要な影響を与えることを示している。
また、日本学術会議(二〇〇八)によれば、出生後の体重の急激な増加は将来的な肥満や生活習慣病の要因になうことが最近の研究であきらかにされたという。
「小さく生んで大きく育てる」というのは、企業経営のプロジェクトについては正しくても、子どもについては間違いなのである。

競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書)

競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書)

  • 作者: 大竹 文雄
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2010/03/01
  • メディア: 新書

P106
 サザンプトン大学の疫学者、デビッド・バーカー博士は、イングランドとウェールズの各地区ごとの比較調査から、1920年ごろの新生児死亡率と40~50年後の心筋梗塞など心血管系の死亡率に相関があることを発見しました。新生児死亡率の高かった地域ほど、生まれて半世紀ほどたってからの心血管系疾患による死亡率が高かったのです。
~中略~
 しかし、バーカー博士はさらに研究を続け、1910年から30年に生まれた男性5000人についての追跡調査をおこないました。その結果、出生時の体重が低いほど、心血管系疾患による死亡率が高い、ということがわかったのです。出生時に赤ちゃんが小さい場合には二通りあります。ひとつは、早産、すなわち未熟児によるものです。そして、もうひとつは、満期産なのに小さい、すなわち子宮内発育不全によるものです。
バーカー博士の研究から、後者、ですから、お母さんのおなかの中で栄養が悪かった赤ちゃんほど、将来、心血管系の病気にかかりやすい、ということがわかりました。
~中略~
いろいろな国で同じような研究がおこなわれていて、どの国でも同じような傾向があることがわかりました。いまでは、この「胎児における低栄養状態は、何十年もたってから、心筋梗塞、動脈硬化、糖尿病、高血圧など、様々な生活習慣のリスクになる」、ということは、確かな事実としてひろく受け入れられています。
バーカー博士に敬意を表して、この現象は「バーカー仮説」と呼ばれることもあります。

P110
 生まれてからも、そのような低栄養状態が続くのであれば問題ありません。というよりも、エネルギーを倹約できるのですから、好都合です。
ところが、生まれてからの栄養状態が良ければ、いや、普通程度であっても、からだが「低栄養指様」になっていますから、相対的には栄養過多になってしまいます。そのことが、肥満や糖尿病といった生活習慣のなりやすさにつながっているのだろう、考えられているのです。

(あまり)病気をしない暮らし
仲野徹 (著)
晶文社 (2018/12/6)

(あまり)病気をしない暮らし

(あまり)病気をしない暮らし

  • 作者: 仲野徹
  • 出版社/メーカー: 晶文社
  • 発売日: 2018/12/06
  • メディア: 単行本


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