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病理学 [言葉]

P020
 病理学、というのは、英語でいうとpathology、ドイツ語でいうとPathologieです。
いずれも、ギリシャ語で「苦難」を意味するpathosと、学問を意味するlogosをあわせた言葉が語源です。直訳すると「苦難学」ですね。実際には、苦難すべてではなくて、病とか病気をあつかうのですから、「病学」とか「病気学」というところでしょうか。
 病学や病気学にくらべて「理」(ことわり=道理とか筋道)という漢字をはさみこんだ「病理学」という言葉は、とても奥行きのある重厚なイメージでなかなかいい感じです。
なんでも、大阪大学医学部の源流となる適塾を開いた緒方洪庵が「アルゲマイネ・パトロギー」を翻訳して「病理学通論」としたのが始めとか。むべなるかな、ですね。
~中略~
これは病の理(ことわり)、言い換えると、病気はどうしてできてくるのかについての学問、ということになります。

P022
 近代的な意味での病理学は、19世紀に活躍したプロイセンの医師ルドルフ・ウイルヒョウにはじまります。紀元前5世紀、古代ギリシャに生きたヒポクラテスの時代に、病気は「体液の異常」によって生じるという考えがありました。完全に間違った説だったのですが、二千年近くものあいだ信じられ、それに基いた瀉血(血液を抜き取る治療法)などがおこなわれてきたのです。
 第2章で詳しく書きますが、ほとんどの患者さんは瀉血で病状が悪化したといいます。体が弱っているのに血を抜かれるのですから、考えてみればあとありまえです。ずいぶんと長い間、とてもおそろしいことがおこなわれ続けていたのです。
しかし、17世紀にオランダの商人であったレーウェンフックによって顕微鏡が発明され、細胞というものが存在することが発見され、次第に風向きがかわっていきます。 19世紀の半ばになって、ようやく、偉大な病理学者ルドルフ・ウイルヒョウが、「Omnis cellula e cellula すべての細胞は細胞から」という言葉をあまねく広め、病気は細胞の異常によりひきおこされる、という「細胞病理学」の概念を確立させたのです。

P037
 ごくおおざっぱにいうと、病気になるということは細胞が痛むということです。細胞レベルにはじまり、組織や臓器になんらかの形態的な異常が認められる病気は「器質的疾患」とよばれています。
もちろん中には、精神疾患のように、現時点では細胞レベルの異常が正確には確定されておらず、「機能的疾患」とよばれる病気もあります。あおれらの病気であっても、異常の原因は細胞にあると考えるのが妥当です。ウイルヒョウが「細胞病理学」と宣言したように、ほとんどの病気は細胞の異常によるものなのです。

P027
 病理学は、大きく、病理学総論と病理学各論、にわけることができます。病理学各論は、心臓の病気とか、腎臓の病気、血液の病気、のように、それぞれの臓器における病気についての学問です。それに対して、病理学総論というのは、いくつもの臓器において共通する病気のできかた、についての学問です。
 英語では、病気の成り立ち=病因は、etiologyとpathogenesisの二つにわけられています。
「etio」というのは、もともとギリシャ語で原因のことですから、病因の原点ともいうべきものをさします。それに対して、genesisという言葉は、聖書では「創世記」ですが、生物学では「発生」を指します。なので、pathogenesisは何らかの原因があって、それによって病気ができてくる過程、を意味します。日本語では、すこし不便なのですが、この両方をひっくるめて「病因」といいます。

こわいもの知らずの病理学講義
仲野徹 (著)
晶文社 (2017/9/19)

 

P1000213.JPG宮島


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