虚血再潅流障害 [医学]
脳や心臓の動脈がつまっても、即座に梗塞になってしまうわけではありません。ですから、早いタイミングで血流を再開させてやると、梗塞を防ぐことができます。そのために、血栓の酵素で溶かしてやる(血栓溶解療法)、あるいは、カテーテルで血管を拡げてやる、という治療法がおこなわれます。血流を再開させることができたらめでたしめでたし、と思われるかもしれません。が、そうは問屋が卸しません。
再開通することによって、さらに細胞に障害が生じることがあるのです。それが、虚血再潅流障害です。
どうしてそのようなことが生じるのでしょう?再開通させると、それが目的なのですから当然なのですが、酸素が供給されるようになります。酸素が供給されると活性酸素の産生も増えて、その活性酸素が細胞障害をひきおこしてしまいます。
さらに悪いことに、低酸素によって痛んだミトコンドリアでは、活性酸素ができやすくなっています。
もう1つ、血流に乗って、白血球のような炎症細胞がやってきます。先に書いたように、炎症反応は、壊死の細胞を消化したり貪食したりするのに必要な反応なのですが、まちがえて正常な細胞にも障害をあたえてしまうこともあるのです。
昔は、血管を再開通させるような治療法はありませんでしたが、あたらしい治療法が開発されて、あらたな病態が生じたという例です。よかれと思ってしたことでも、予想外の副作用が生じてしまうことって、医学だけでなく、日常生活でもけっこうありがちなことかもしれません。
こわいもの知らずの病理学講義
仲野徹 (著)
晶文社 (2017/9/19)
P069
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