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モルヒネ [医学]

P190
非常に多くの鎮痛薬なるものが臨床の場に登場しては、いつの間にか潮が引くように消えてゆくなかで、紀元前四千年頃からモルヒネは、常に確固とした地位に君臨しつつ現在にいたっている。モルヒネにまさる鎮痛薬は今までもなかったし、今後も出現する可能性はきわめて少ない。 
 自然界に存在する植物のケシから抽出されたアヘン(麻薬類)は、シュメール人によってはじめて使用されたという。ギリシア人は、ケシの抽出物の作用は眠りの神(ヒポノス)、夢の神(モルフェウス)によるものと信じ、モルヒネという名前がつけられたとされている。

P191
 モルヒネに関して重要なことは、モルヒネに対して根強く定着している誤解を解くことであろう。
モルヒネは鎮痛薬として他のいかなる鎮痛薬よりもすぐれているにもかかわらず、モルヒネに関する誤解はあまりにも多く、しかも根強い。この誤解は、多くの医師にとって確信に近いものであるため、一般の人たちにとっても患者にとっても、当然のごとく誤った知識が定着している。また、モルヒネに対する誤解を、マスコミもまたモルヒネと覚醒剤を混同してヒステリックに報道しつづけてきている。

P195
痛みさえなくなれば、麻薬をほしがることは普通の場合には見られない。アルコール中毒患者が酒の味よりもアルコールそれ自体をほしがると同様に、麻薬中毒患者は痛みとは関係なくモルヒネをほしがる。したがって、アルコール中毒患者と同様にモルヒネに関しても、モルヒネ中毒患者は実在する。~中略~
 モルヒネ中毒患者が実在するという理由で、何ものにもまさるモルヒネの鎮痛効果の実用的な価値を否定することは、「風呂の水と一緒に赤ん坊まで捨ててしまう」ことになるといわなければならない。

痛みとはなにか―人間性とのかかわりを探る
柳田 尚 (著)
講談社 (1988/09)

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