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共働的意思決定(シェアード・デシジョン・メーキング) [医療]

 がん治療にあたる医療者は、がん患者やその家族に対して、病状を告げること、および、その後の方針について話し合うことを日常的に行なっているが、多くの場合、それぞれの医療者の経験に基づいた手法が用いられている。
そして経験豊かな医療者は、真心をこめれば、相手に気持ちが伝わり、よい意思決定ができると信じている。はたして、それは本当なのだろうか?
 一定の期間、がん治療に携わっている医療者は、十分に説明したつもりでも、患者にわかってもらえなかったり、予想外の返答をされることをしばしば経験する。
しかし、多くの医療者はそれが偶然のこと、すなわち相手(患者や家族)が(理解力が)悪かったと片づけてしまっていて、そこに一定の理由があることに目を向けないことが多い。
~中略~
IC(住人注;インフォームド・コンセント)の導入後、患者の権利は確立される方向にあるが、一方で、説明だけして、後の意思決定は患者や家族にゆだねてしまうインフォームド・チョイスの傾向が強まってきた。しかし、この意思決定の方法は、人間は合理的に判断し、選択可能な生き物であるという考えに基づいており、その考えは伝統的な経済理論における人間観と同じである。
近年、多くの研究により、人間は必ずしも目の前にある情報を的確に処理し、より合理的に意思決定をしているわけではないことが明らかにされている。とくに医療についての知識や経験が欠如している患者やその家族が(さらに当事者であるというバイアスがある中で)合理的に考えるという前提には無理がある。
 そこで、最近になり、医療者と患者の意思決定は、ともに行うべきものとして、共有意思決定あるいは共働的意思決定(シェアード・デシジョン・メーキング)という概念が導入されてきた(1)。
患者やその家族は、医療の知識に明るくなく、医療者からの丁寧な説明においても、十分にその内容を理解できるわけではない。これまでの報告では、医師による1回の十分な説明ののちに、患者が自分の病状を理解しているのはおよそ60%であり、さらに投薬された薬剤の副作用にいたってはおよそ4割しか理解していないことがわかっている。(2)。
このようにICの原則のもとで患者の意思決定には大きな欠陥があるとわかりながらも、医療者は説明し、自立原則を守っていれば説明責任を果たしと考えて、訴訟などの難を 逃れられるとしてきたのだ。
 共有意思決定の概念は、知識や理解力に乏しい患者やその家族とともに、専門家として、たとえて言うならソムリエのように意思決定支援をしていこうとという考え方である。
共有意思決定の考え方は、人間の意思決定には様々なバイアスがあり合理性には限定があるという行動経済学の考え方と対応している。  

医療現場の行動経済学: すれ違う医者と患者
大竹 文雄 (著), 平井 啓 (著)
東洋経済新報社 (2018/7/27)
P69

DSC_5834 (Small).JPG宝満山

P85
 数値のもつ意味の違いについても同様なことがいえる。
英国で行なわれた調査において、とある治療によって得られる効果が最低何%であればその治療を受けるか/勧めるか、ということを患者と医師に尋ねたところ、その判断基準となるパーセンテージは患者の方が医師よりも低かった。
この結果はつまり、医師が推奨しないレベルの確率であっても治療を希望する患者が存在する、ということを意味している(16)。
 このように、同じ数字を見ていても、その数字から受け取る意味は医師と患者とでは異なっている。これは先に紹介した事例Bのケースにも当てはまる。この場合、そこで起こっていることは、「伝えた医学的根拠(エビデンス)を理解していない」のではなく「理解はしているが、捉え方が医師とは異なる」ということになる。
したがって、正確な「数値」をいくら追加で説明したとしても、状況は改善しない。
 患者とのコミュニケーションにおいて「なにか不思議なこと」が起こっているとき、そこには合理的には説明がつかない、感情やバイアスといった要因が影響している可能性がある。まずはそのことに気づき、一歩ひいたところから、患者の考えていることを理解しようと努めることが、解決のための糸口になる可能性がある。

P168
高齢者ががんなどの病気になったときに、治療の方針を自分自身で決めることが難しい場合が多くある。
たしかに、いきなり「がんの治療を決めろ」と言われても、初めての経験であるし、何をどう考えてよいのか見当もつかない。治療を比較すると言われても、何を比べたらよいのかわからない。
インターネットで調べてみれば、いろいろな人がブログに体験を書いているが、自分に当てはまるかどうかもわからない。皆目見当がつかないというのも当然と言える。
「患者の意向に沿った治療」を実現し、適切なインフォームド・コンセントを患者が与えることができるようにするためにも、適切な意思決定支援の方法が必要である。

P177
 本人の意思決定とあわせて高齢者の診療の特徴となるのが、付き添いの家族がつくことである。 がんなどの治療を受ける。その点で、家族が同伴する・しないはどうしても治療方針に影響を与える。


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