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意思を表示したくないという意思 [ものの見方、考え方]

 2017年の世論調査によれば、臓器移植の意思表示をしている人の割合は12.7%にとどまっており、その割合は過去20年大きな変化が見られない(14)。
残りの8割以上は、意思表明をしたくないという意思を持っているか、もしくは単に意思が不明であるかのいずれかである。
法律の改訂により、本人の意思が不明な場合には家族の同意だけで提供ができることになったが、それは、意思表示をしていない8割強のうちの「意思表示をしていないが、提供には反対ではない(かもしれない)人たちに対する政策的介入と考えられる。
 この結果、たとえば図9-2において「意思表示をしたいとは思わない」と明示的に解答した24.4%の意思は、「意思なし」とみなされ、家族が決定するというかたちで「提供意思」の一部に含められることとなった。
現行の日本の制度は、意思表示カードが用意されているという意味ではオプトインのようにみえるのだが、実際には、本人の提供意思が明らかでない場合には、「(本人の提供意思は考慮から外して)家族が判断する」というかたちで、提供意思のデフォルトをへんこうしたのだといえる。
 臓器提供の意思表示において、デフォルトの変更を行うことが強い介入となることは、先に議論したとおりである。
そうした介入に際しては、「意思を表示したくないという意思」を示すことができる余地を作ることや、「わからない」と答える者に対して熟慮の機会を提供するといった、アーキテクチャーの設計に関する議論が同時になされなければならない。こうした配慮を欠いた政策は、自由に対する過剰な介入だという批判を免れないだろう(15)。
 この改定により、意思決定に際して家族が背負うことになる負担がこれまで以上に重くなったという点も見過ごすことができない。ドナー家族へのサポートや支援が全く整備されていないなかで、不確実性の高い状況におかれた家族が重大な決定主体とならざるを得ない制度設計を行うことは、移植医療全体のガバナンスにとって決して得策とはいえない。
臓器移植医療においては、臓器の提供件数が少ないために様々な問題が生じているとはいえ、提供数を増やそうとすることでそうした問題がただちに解決されるわけではない。
本章でとりあげた意思表示の仕方や家族の関わり意外にも、脳死判定を行う各医院のコストや、医療現場への負担といった、医療体制の実体に即した適切な介入のあり方を模索しなければならないだろう。
いたずらに提供数を増やそうとすることは、却ってシステム全体に負の影響を引き起こすことになる。

医療現場の行動経済学: すれ違う医者と患者
大竹 文雄 (著), 平井 啓 (著)
東洋経済新報社 (2018/7/27)
P197

DSC_5892 (Small).JPG宝満山


タグ:大竹 文雄
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