夢 [言葉]
若者は夢と未来に向かって前進する。
老人の前進は死に向う。
同い年の友達との無駄話の中で、我々の夢は何だろうということになった。
「私の夢はね、ポックリ死ぬこと」
と友人はいった。
ポックリ死が夢?
なるほどね、といってから、けれど、と私はいった。
「あんたは高血圧の薬とか血をサラサラにする薬とかコレステロールを下げる薬とか、いっぱい飲んでいるけど、それとポックリ死とは矛盾するんじゃないの?」
すると憤然として彼女はいった。
「あんた、悪い癖よ。いつもそうやってわたしの夢を潰す・・・・・・」
彼女にとってポックリ死はあくまで「夢」なのだった。
~中略~ 現実には摑(つか)めないことをわかっていての「夢」である。
九十歳。何がめでたい
佐藤 愛子 (著)
小学館 (2016/8/1)
P27
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