目次 医学 [医学]
医学
- 東洋医学に対する誤解
- 医師の志
- 医者はシャベリが命
- 医師の見識
- 介入は控えめに
- 扶氏医戒之略
- 医者は汚れ役
- 医師の良心
- 患者さんにとって信頼できる主治医の条件
- 免疫療法
- 抗がん剤治療
- 転移
- 早期発見・早期治療すれば治るわけではない
- がんは多様である
- がんは治るのか
- ガンは老化現象
- 老化します?がん化します?
- 慢性炎症→線維化→発がん
- 胃がんは減っている
- がん治療≠手術
- がん治療で二次的がん
- 術中迅速病理診断
- センチネルリンパ節
- がん疼痛治療法
- 胸腔鏡手術
- 虚血再潅流障害
- 不整脈
- 抗不整脈薬
- 心房細動
- 心房細動リスク年齢
- 脳卒中
- カテーテルアブレーション
- ノックアウト型脳梗塞
- BNP
- 血液をサラサラにする薬
- 金属アレルギー
- 掌蹠膿疱症
- 主婦湿疹
- メンテナンスフリーのインプラントは無い
- 誤嚥性肺炎
- 頻尿
- 医者が競うのは手術の速さじゃない
- 躁状態は辛い
- 薬は少ないほうがいい
- 精神療法
- 精神科治療
- 平均値と正常値
- 自然治癒力
- 内臓感覚
- 痛みとは
- 第三の痛み
- 慢性疼痛
- 痛いかどうかは本人次第
- 心因性疼痛
- 痛みの意味
- 人生いろいろ 痛みいろいろ
- 痛みを消すための努力
- モルヒネ
- 抗うつ薬の鎮痛作用
- 音楽療法
- 温冷鎮痛法
- マッサージ鎮痛法
- プラセボ効果
- ステロイドで治るの?
- 抗がんサプリメントは宗教である
- 高血圧の治療には根拠がない
- 脳梗塞は血圧の低いときに起こる
- 胃ろうの医学的根拠
- 認知症の分類
- 認知症のきっかけ
- 認知症と向き合う
- 解熱剤で熱を下げると、治りは遅れる
- うつと向き合う
- パーソナリティ障害
- パーソナリティ障害とどう向き合う
- 「SNS依存症」の分類
- 鍼に関する誤解
- 看護師の役割5か条
- 共感することは良いこと?
- こころの病
- アイデンティティ危機に陥れる患者たち
- 日本で最初のホスピス
- 診断は感性でやるんだ
- 徒手空拳の感覚
- 交流分析1
目次 医療 [医療]
医療
- 医療の目的
- 臨床
- 医は仁術
- 現代の医療は検査と治療が不可分
- 絶対とか100%ってのは医療にはありえない
- 今の医者が気に入らないからセカンドオピニオン
- 患者参加型医療
- 「真実を伝える医療」か「ウソも方便」か
- 悪い知らせ
- SHARE
- SPIKES
- うまい話と自慢話は要注意
- インフォームド・コンセント
- インフォームド・チョイス
- インフォームド・パターナリズム
- 自己決定権は自己責任
- EBM(根拠に基づく医療:evidence-based medicine)の限界
- 知らないでいる権利
- 納得して治療
- 決められない患者たち
- 共働的意思決定(シェアード・デシジョン・メーキング)
- 自立した患者
- 患者の希望は途中で変わる
- 「差し控え」と「中止」は違う?
- 治りたいと思っていない患者さんは治りません
- 意志執行代理人
- 医療に「時間の手当て」はない
- モノでなく知識と技術と経験値を売る医師
- AIが診断して治療法を選択する
- がんになったら
- 終末期医療
- 代替医療を疑え
- 生命維持治療の中止は違法行為?
- 命の値段
- 医療では何が正解か一概に言えない
- 時間が経過するのを我慢できるかどうか
- 病気と患者との三角関係
- 患者として成熟する
- 畳の上で死ぬのは贅沢?
- 看取り難民
- 訪問看護
- ひとは患者である前に、まずひとりの生活者です
- キュアからケアへ
- 施設どき
- ホスピス
- 臨終ビジネス
- 患者に優しい医療
- 敬意を払って
- アトピー
- 「ガイドライン」は何者かの都合で作られる
- 厚労省はここまでやる
- 高血圧症とは詐欺商法である
- 日本人は太ることで、寿命を延ばしてきた
- 病院給食の「三悪」
- リハビリテーションからみえる日本の医療水準
- 世界一薬好きな日本人
- 血圧の薬を飲むと病気になる
- 臨床薬剤師
- 医療のめざすもの
- 肉親の看護にまさるものはございません
- 在宅介護が第2の患者を作っている
- 医療は、自分との対決である
- 本当の治療
- 医療サービス
- 予約診療は誰のため?
- 医療崩壊の原因
- 訪問診療はアウェー
- インプラントの値段
- なぜインプラントは保険がきかないの?
- 口臭は自分では気づかない
- 人間に関心がないのでしたら、援助者には向きません
- 患者さんを笑顔にする5つの”魔法のコトバ
- 心を通わす
- 不安への対応
- 医師の分類
- 患者の分類
- 名医
- 私、失敗しないので
- 先生に治せますか?
- 気合で治す
- 研修医とは医師における思春期である
- 医者だって人間だもの
- 病人はいなくなるのか
- なぜうつ病の人が増えたのか
- うつ病の大衆化
- 生徒の「うつ」を見逃すな
- 認知症の最初期の人への対応
- 認知症の「中核症状」と「周辺症状」
- 病牀六尺
目次 所感 [所感]
医師の見識 [医学]
(住人注;余命)「あと、どれくらいですよ」というのは、明らかに統計学ですから、何例中何例という話です。
これは大体、偏差値の高い人たちが好きなんですよ。たくさん集めて平均したらこのくらいだと。もちろん統計にも幅がありますから、短めのところはこのへんで、長めのところはここだと。
いま玄侑さんの話のように、家族に聞かれた時にお医者さんは、その話をしているわけです。
だけどガンの患者さんは、一人ひとりが全部違うわけですから、他人の集まりの、しかも気候も風土も生きてきた歴史も違うものを集めて統計で作ったものを、個人の患者さんに当てはめるというのは、尺度が違う場面のほうが多いわけですから軽々にいってはいけないところがあるわけです。
しかし、通常は家族などがある範囲の誤差を承知の上で聞きたいというケースもありますので、その時に医師の見識が大切になります。
だから私が常にいうのは、ガンの患者さんを統計学的に診てはいけない、一人ひとり全部違う病気を考えることが大切で、一人ひとりが、いつもすべて新しいわけですから、全力投球しないといけない。
だからといって、「先生、あとどのくらいでしょうか」といわれた時に「一例一例違うのに、分るわけないじゃないか」とはいえない。
それでは「統計学的にはこうですよ」という話をしたらいいのかというと、そうでもないですよね。
そこのところは、お医者さんの人間性というかね。
坪井栄孝
玄侑 宗久 (著)
多生の縁―玄侑宗久対談集
文藝春秋 (2007/1/10)
P127
代替医療を疑え [医療]
P184
ひとことでいうと、これまでの治療成績のデータに基づいておこなわれている医療が標準医療で、それ以外のものが代替医療です。
「がんにおける代替医療とその生存に対する影響」と題された論文が、エール大学の研究チームから発表されました。(JNCI,2018)。
JNCIというのは、米国国立がん研究所によるがん研究分野での一流雑誌です。けっこう大きく報道されたその内容は、代替医療だけを受けた人の死亡リスクは、標準医療を受けた人の2.5倍というものでありました。
~中略~
ただし、少し注意が必要なのは、その論文は、代替医療だけを受けた人についてのデータとの比較である、というところです。
標準医療に代替医療を組み合わせたものは「統合医療」、それから標準医療に組み合わせて使う代替医療は「補完医療:と呼ばれます。こういったケースと、代替医療の単独治療のケースは区別して考える必要があることはいうまでもありません。
ひっくるめて考えると、少なくとも代替医療だけに頼るのはやめといたほうがよろしい、ということになります。
P186
標準医療と代替医療の違いは、医学的な裏付けがあるかどうか、すなわち、治療についてのエビデンスがあるかないか、です。研究が進んで、代替医療とされていたものが標準治療に格上げされることは、当然ありえます。
なので、すべての代替医療が絶対に効かない、と断定するのはきわめて困難です。しかし、がんのように放置すると死に至る可能性が高い病気において、エビデンスのない治療法に身をゆだねるのは、あまりに危険すぎるとは思われませんか?
ほかに治療法がないと診断されたので代替医療を、という人もおられるかもしれません。その心情が理解できない訳ではありません。しかし、ほとんどの医師は、たとえ自分がそのような状況になったとしても、代替医療に大枚をはたいたりしないでしょう。
P187
その本(住人注;アルトゥール・ガワンデというハーバード大学教授の「死すべき定め―死にゆく人に何ができるか」(みすず書房))では、末期のがん患者の場合、緩和ケアをしっかりうけるようにした方が、抗がん剤などの治療を中止するタイミングもホスピスに入るタイミングも早くなった、そして、臨終の苦痛が少なかった、という研究が紹介されています。
でも、そんなことをしたら寿命が短くなってしまったのではないかと思われるかもしれません。わたしもそんな気がします。しかし、実際は逆で、平均25%も長生きしたというのです。
末期がんで代替医療に身をゆだねるよりも、心の平穏が得られるし、この方がはるかにいいと思うのですが、いかがでしょう。
(あまり)病気をしない暮らし
仲野徹 (著)
晶文社 (2018/12/6)
自己決定権は自己責任 [医療]
考えてみると、こういう患者発信の本が、現代ほど必要な時代はありません。
なぜなら、現代の医療は、以前の「先生にお任せ」といった医者中心の医療ではなく、患者が自分で治療法などを選択しなくてはならない変革期だからです。
患者の自己決定権を大切にする医療へと変化してきているからです。
でも、私たち日本人は、長い間「お任せ」医療の中にいましたから、「自分で決めなさい」と言われても、おたおたするばかり。
市場に出回っている医者の側から発信されたガン関係の本の多くは、病状や治療法であり、知識の吸収にはすこぶる有益。
でも、患者は実はそれらとは次元の違う実際的なことで悩んでいるんですね。
病院はどうやって決めたらいいのか?手術ってしなくちゃいけない?手術するとしても、執刀医の腕は信じられる?看護師の態度に傷ついちゃうけど、仕方ないの?
手術する入院の時の病室は個室にしたほうがいいのか?
患者は、こういう現実的な問題で困惑しているのです。
大学教授がガンになってわかったこと
山口 仲美(著)
幻冬舎 (2014/3/28)
P9
抗不整脈薬 [医学]
不整脈を治療する抗不整脈薬には非常に多くの種類があって、お医者さん、場合によっては循環器のお医者さんでも不整脈を専門としない人は苦手とするところです。分かりやすくするために、抗不整脈薬を5つのタイプに分類してみましょう。
~中略~
心臓の興奮で重要となるイオンは3つ、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンです。したがって、心臓の興奮に重要なチャンネルはナトリウムチャンネル、カリウムチャンネル、カルシウムチャンネルの3つになります。
これらを抑制(ブロック)する薬物がそれぞれあります。このような薬をそれぞれ、ナトリウムチャンネルブロッカー、カリウムチャンネルブロッカー、カルシウムチャンネルブロッカーと呼び、抗不整脈薬の5つのタイプのうち3つに相当します。
こう不整脈薬には、もうひとつ重要なタイプがあります。~中略~ 運動したり興奮した時、鼓動が速くなることからも分かるように、交感神経が不整脈と深くかかわっています。
この交感神経の働きを抑制する薬を、「ベータブロッカー」と呼びます。交感神経の受容体にはアルファ受容体とベータ受容体という2種類がありますが、心臓で重要なのがベータ受容体の方なのでこれを抑制(ブロック)する薬をベータブロッカーと呼ぶのです。これが4つめの抗不整脈薬です。
これ以外に、以上の4つには分類されない抗不整脈薬があります。~中略~ 第5のタイプ()住人注;その他の抗不整脈薬)に属する薬で心房細動の治療で使われるのは、「ジギタリス」と呼ばれる薬です。
心房細動のすべて ――脳梗塞、認知症、心不全を招かないための12章
古川 哲史 (著)
新潮社 (2018/12/14)
P95

心房細動のすべて ――脳梗塞、認知症、心不全を招かないための12章 (新潮新書)
- 作者: 古川 哲史
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2018/12/14
- メディア: 新書
病牀六尺 [医療]
脳梗塞の発作の後、今まで何気なくやっていたこと、たとえば歩くことも、声を出すことも、飲んだり食べたりすることも突然出来なくなった。
自分に何が起こったのか理解できなかった。
声を失い、尋ねることも出来なかった。叫ぶことすら不可能な恐怖と絶望の中で、死ぬことばかり考えて日を過ごした。
呻き声だけが私に出来る自己表現だった。自死の方法を考えて毎日が過ぎた。今思えば危機一髪だった。
でもこうして生きながらえると、もう死のことなど思わない。
苦しみがすでに日常のものとなっているから、黙ってつき合わざるを得ないのだ。
時には「ああ、難儀なことよ」と落ち込むことがあるが、そんなことでくよくよしても何の役にも立たないことくらいわかっている。
受苦ということは魂を成長させるが、気を許すと人格まで破壊される。
私はそれを本能的に免れるためにがんばっているのである。
病気という抵抗をもっているから、その抵抗に打ち勝ったときの幸福感には格別のおのがある。私の毎日はそんな喜びと苦しみが混ざりあって、充実したものになっている。
寡黙なる巨人
多田 富雄 (著), 養老 孟司 (著)
集英社 (2010/7/16)
P128
SHARE [医療]
P11
わが国のがん患者は,悪い知らせを伝えられる際に医師に対してどのようなコミュニケーションを望んでいるのだろうか。この疑問を明らかにするために,筆者らは国立がんセンター東病院において42名の外来通院患者,および7名のがん専門医を対象とした面接調査を実施した1)。~中略~
その結果,がん患者の悪い知らせを伝えられる際に望む,あるいは望まないコミュニケーションとして70のコミュニケーションがあげられ,それらは内容の類似性から「supportive environment 支持的な場の設定」,「how to deliver the bad news 悪い知らせの伝え方」,「additional infomation 付加的な情報」,「reassurance and emotional support 安心感と情緒的サポート」
という4つのカテゴリーにまとめられた。~中略~
これらの研究結果から得られた悪い知らせを伝えられる際の患者の意向の構成要素をその頭文字からSHAREとした。
P12
1.Supportive environment (支持的な場の設定)
目標
・落ち着いた環境を整える
・信頼関係の構築
P13
2.How to deliver the bad news (悪い知らせの伝え方)
目標
・患者に対して誠実に接する
・患者の納得が得られるように(例えば,単なる情報提供にとどまらず,気持ちを整理できるように促し,患者の意向を踏まえて受け入れられる状態にあるかどうかを確認しながら)説明をする。
P14
additional infomation (付加的な情報)
目標
・今後の治療方針に加えて患者個人の日常生活への病気の影響など患者が望む話題を取り上げる。
・患者が相談や関心事を打ち明けることができる雰囲気を作る(そうすることによって,病気だけでなく患者本人への関心を示すことができる)
がん医療におけるコミュニケーション・スキル―悪い知らせをどう伝えるか
内富 庸介 藤森 麻衣子 (編集)
医学書院 (2007/10/1)
![がん医療におけるコミュニケーション・スキル[DVD付]―悪い知らせをどう伝えるか がん医療におけるコミュニケーション・スキル[DVD付]―悪い知らせをどう伝えるか](https://m.media-amazon.com/images/I/417pySJNw8L._SL160_.jpg)
がん医療におけるコミュニケーション・スキル[DVD付]―悪い知らせをどう伝えるか
- 出版社/メーカー: 医学書院
- 発売日: 2007/10/19
- メディア: 単行本
肉親の看護にまさるものはございません [医療]
「患者本位」というと、患者さんのがわには、病院に頼る、医師に頼る、薬に治してもらう、という感覚があると思いますが、そうではなくて、医療の原点は患者さん自身にあるのです。これをしっかりと理解していただきたいと思います。
うちなる回復力を高めるためには、肉親の情、肉親の看とりもだいじなことです。
たとえば、子供さんが入院されたときに、入院期間中でも、子供さんはどんどん成長しています。
その成長過程には、親の愛情がとてもだいじなのです。この代役は、医者にも看護婦にも、つとまりません。
なのに病院には、面会時間を何時から何時までと決めて、親や家族まで追い払うような姿勢がございます。これはおかしいと思います。
病院が最善を尽くすのは当然ですが、やはり、肉親の情、肉親の看護にまさるものはございません。
それを「基準看護」(注2)の名のもとに、規則一点ばりで、大切な家族まで追い払うようまなことは、戒めなければならないと思います。
患者本位の病院改革
新村 明(著),藤田 真一(著)
朝日新聞社 (1990/06)
P29
不整脈 [医学]
心臓は、正常では規則正しく一定のリズムを刻んでいます。この正常のリズムを専門用語で「洞調律」といいます。これは、正常の脈が洞結節と呼ばれる心臓の上部に位置するこぶのような構造(これを「結節」といいます)から始まるからです。(図1)。
このリズムの規則が崩れた状態をすべて「不整脈」と呼びます。心房細動は不整脈の1つです。
心房細動のすべて ――脳梗塞、認知症、心不全を招かないための12章
古川 哲史 (著)
新潮社 (2018/12/14)
P13

心房細動のすべて ――脳梗塞、認知症、心不全を招かないための12章 (新潮新書)
- 作者: 古川 哲史
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2018/12/14
- メディア: 新書
病人はいなくなるのか [医療]
「医学が発達したというなら、病人が減らなきゃいけないのに、逆でしょ。事実は、増えている。病人だらけですよ。高血圧が3000万人とか4000万人。糖尿が2000万人いるとか。そんなバカな話はない。たいした証拠もないのに、上限が下げられている総コレステロール値。私が大学を卒業した頃は260以上だったのが、今は220。
血圧だって160以上だったのが140.糖尿の血糖値だって140以上だったのが今は126。学会が中心になって、下げてきている。下げてどうなるのか。病院ばっかり増えちゃう。
自覚症状はほとんどないのに、検診なんぞ受けるから、数値高いよと言われてしまう。誰だって異常だと言われると心穏やかじゃなくなるから、しょうがない病院いこう、となる。
中村仁一
別冊宝島2000号「がん治療」のウソ
別冊宝島編集部 (編集)
宝島社 (2013/4/22)
P139

別冊宝島2000号「がん治療」のウソ (別冊宝島 2000)
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2013/04/22
- メディア: 大型本
主婦湿疹 [医学]
いわゆる主婦湿疹とは、毎日の炊事や洗濯で使う洗剤で手の皮膚のバリアが失われたために起きる湿疹で、この場合の発疹は、おもに洗剤にもっともよく触れる、利き手の親指や人差し指の先にできる。
なぜ皮膚はかゆくなるのか
菊池 新(著)
PHP研究所 (2014/10/16)
P181
医療は、自分との対決である [医療]
一人の内科医としては恩師(住人注;信州大学医学部での筆者の恩師、戸塚忠政先生)の、最終講義の言葉を診療の基本としております。
「症候は、天与の黙示として大切に取り扱い、その意味づけに心をくだくべきだ。安易に、対症療法を行うべきではない。医療は、自分との対決である」という言葉です。
患者さんはつねに何かを訴えておられる、全人的に細かいところまで観察し、看とらなくては、その病気の本源はわからない、患者さんの体全体を拝見すれば、どこかに無言で訴えているものがあるはずだ、それを医者は見逃さないようにしなければならない、ということです。
患者本位の病院改革
新村 明(著),藤田 真一(著)
朝日新聞社 (1990/06)
P53
アトピー [医療]
P110
私がかつて勤めていた大学病院では、当時、奇病の研究には余念がなかったが、アトピーとわかると、研修医が当番制で務める「なんでも外来」に回されてしまい、まともな治療を受けられなかった。
適当にステロイドの外用剤を出しておいて、それが効かなくなればもっと強いステロイドを出しておけばいい」といった具合で、どんどん症状を重症化させてしまうようなこともしばしばだった。~中略~
街のクリニックの医師でも、皮膚科の専門知識がないにもかかわらず治療をおこなっているケースは多い。日本では、自分の専門外の分野であっても「標榜」して良いという制度になっているため、たとえば内科医であっても、「内科、、皮膚科」という看板を立ててクリニック運営することが可能なのだ。
~中略~ そういう医師に限って「皮膚科ではステロイドと抗真菌薬(水虫の薬)と抗生物質の軟膏のどれか適当に塗っておけば治る」と信じている。
極端な例だと、これらを三つ混合して、「どれかの成分が効くだろう」と処方してしまうかなり乱暴な医師もいる。 ~中略~
医師からしてこのような状態なのだから、患者さんが民間療法などに頼りたくなるのも無理はない。~中略~
アトピーはたしかに原因が分かりにくく、治療にもかなりの時間がかかる厄介な病気だが、根気よく原因を探し出し、それを除去するという治療法を続けていけば、必ず良くなる病気である。
P195
アトピーを発症するには、大きく分けて二つ条件がある。一つは「先天的に皮膚が弱いこと」、もう一つは「アレルギーを持っていること」である。
「皮膚が弱い」とは、この場合は皮膚表面のバリア機能が弱いということである。もともとアレルギーを持っていても、皮膚のバリアがしっかりしていれば、アトピーにはならず、アレルギー反応は、鼻水や咳などの別の形でであるだけである。
また、アトピーの人は「アレルギー体質」であるともいえる。
~中略~
皮膚のバリアが弱くても、アレルギー体質でなければアトピーにならない。
ただし、もともとアレルギーのなかった人が、皮膚のバリア機能が低下したことで不幸にしてアレルギーを引き起こしてしまい、結果アトピーになってしまうというケースがあることが最近わかってきた。
P195
蛇足になるが、アトピーの患者さんに、「掻いてはいけないので叩きなさい」と指導する医療機関がある。これはまったくの誤りで、これまでにも述べたようにアトピーの人は皮膚が弱く壊れやすい、つまり細胞間の接着因子の働きが弱いため、特に顔がかゆいからといって顔面を叩き続けると、網膜剥離を起しやすく失明にもつながることがあるので、絶対にやめてほしい。
P148
アレルギーやかゆみのメカニズムを理解した医師であれば、原因療法をきちんとおこなったうえで、症状が悪くなったときは上手にステロイドをい使う治療もおこなう。
もちろんその患者さんが過去に他の病院などで強いステロイドをい処方されているケースもあるだろう。
そのような場合、症状を診ながら徐々に弱いものに変えたり、使用回数を減らしたりしていく。
うまれつきの乾燥しやすいデリケートな肌に対して、冬場保湿剤を塗る程度で 日常生活にはまったく支障をきたさないようにする。そこが治療のゴールであり、すべてのアトピー治療は、そこを目指さなくてはならないのだ。
P191
洗剤や柔軟剤のかぶれをアトピーと誤診されている乳児は多い。
現代の子供の皮膚は、昔に比べてアレルギーを起しやすくなっている。そのバックグラウンドには、抗生剤の乱用による腸内環境の悪化、水道水の塩素濃度、周囲の環境因子などが少なからず絡んでいる。また、石鹸などの洗浄力が強くなっているにもかかわらず、日本人特有のきれい好き習慣があいまってバリア機能は逆に低下し、このような事態が増えているのだ。
P180
皮膚科の病気、特にアトピーなどのアレルギーは、その人の日常の生活環境や過ごし方が治療効果を左右する場合が多い。この医師と一緒に治していくと決めたら、その指導をできるだけ守ってほしい。それが治癒への近道なのである。
なぜ皮膚はかゆくなるのか
菊池 新(著)
PHP研究所 (2014/10/16)
自立した患者 [医療]
P112
リサのケースでは、二番目の整形外科医は最近の医療文化の中で特に重視されている患者の自律性に影響を受け過ぎているようだ。
リサは医師の言葉を引用して言った。「「やってもいいし、待ってもいい」と言われたんです。全然助けになりませんでした。だって「全てあなた次第ですよ」と言い続けるだけなんですから」
ミシガン大学のカール・シュナイダーが明らかにしたように、医師がガイド役としての役を放棄して選択の重荷を全て患者の肩にのせてしまうという、自立性の原則の行き過ぎともいえるケースもみられる。
リサの得たセカンドオピニオン、「やりたいようにやりなさい」はこれにあてはまるだろう。
アリゾナ大学のコノリーは患者が決断時に自立性を発揮すればするほど、将来の後悔のリスクは高くなることに言及している。つまり、もしも結果が悪ければ、自分自身を責める羽目になるかもしれない、ということだ。
もちろん、これは微妙なバランスの問題ではある。というのは、悪い結果が起ったとき、自分が十分自立的に動かなかったからだ、と後悔する可能性もあるからだ。
P168
乳癌を持つカナダ人女性一〇〇〇人以上を対象にしたある調査では、二二%のひとが癌の治療法を自分で決めることを望み、四四%のひとは主治医と相談して決めたい、と答え、三四%のひとは決断を完全に主治医に委ねたい、と回答した。
一方、経過を通じて意思決定の際に自分が望む程度の主導権を発揮することができなかった、と答えているのは半数以下だったことは興味深い。
放射線治療をどうするか決める重要な局面に至ったとき、すでに腫瘍内科医に十分な信頼を培っていたジュリーは主導権を医師に委ねることに抵抗はなかった。~中略~
ジュリーは私たちに語った。「腫瘍内科の先生は放射線治療を受けたほうがいいと確信していました。こうなったら、先生は自分にとって何が本当にベストか考えてくれているんだ、と信じようと思いました。そもそもそのために自分に合った先生を探したんですから」
「そういう意味では、自分の先生を信頼できた、というのは幸いなことでした」
ジュリーは主導権を医師にある程度譲り渡すことで、人生の非常につらい時期を何とか乗り切ることができた。
P185
カール・シュナイダー(ミシガン大学教授。法律学)は著書「自立性の行使」で、私たちの文化圏では、病気にかかったときすべての局面で本人が自立性をみせないことそれすなわち悪、とうるかのような行き過ぎた風潮が時にみられる、と指摘している。私たちも彼に同感である。
私たちが考える真の自主性とは、自分がコントロールする範囲を自ら決めることにある。
さらに、自立性とは、自分がどう事態に対処するかを規定するものでもある。
P298
「全てのひとに合うフリーサイズ」の治療が存在しないのと同様に、このくらいの主導権を行使するのが正しい、という唯一絶対の答えは存在しない。
したがって、スタート地点でさしあたりどのくらいの自立性を行使するのかを決め、その後経過の中で自分が主治医にどの程度信頼を寄せられるかを見極めてから、もう一度自分の介入の加減が妥当かを考え直してみるのが良いだろう。
決められない患者たち
Jerome Groopman MD (著), Pamela Hartzband MD (著), 堀内 志奈 (翻訳)
医学書院 (2013/4/5)
脳梗塞は血圧の低いときに起こる [医学]
脳梗塞は高血圧が原因といわれるが、そうではない。むしろ、血圧の低いときに起こる疾患である。
脳の血管が詰まりかけたとき、体は懸命に血流を勢いよくし、血のかたまりを吹き飛ばそうとする。血圧を上げて、脳を守ろうとしているのだ。
「高血圧だから、脳梗塞になった」のではなく、「脳梗塞だから、血圧を上げて治そうとしている」のだ。原因と結果を取り違えているのである。
このとき、血流が弱く、血のかたまりを押し流すことができなければ、簡単に脳梗塞になってしまうだろう。これは少し考えれば、わかることである。
薬で血圧を下げることは、命取りなのだ。「脳梗塞は(降圧剤を処方した)医師によって作られる」と言っても過言でない。
東海大学医学部名誉教授・大櫛陽一氏の研究によれば、
「降圧剤を飲んでいる人は、飲んでいない人に比べて脳梗塞の発症率が2倍になる」という。
~中略~
実は、戦後1950年代までは、脳卒中のうち、約90%が「脳溢血」だった。時代を下るにつれ、脳溢血は減り、脳梗塞が増える。70年代に入ると逆転し、90年代に入ってからは、脳溢血が10~20%で横ばい、脳梗塞は80~90%で90年代半ばから急に増加している。
なぜ昔は、これほど脳溢血が多かったのか?
それは戦後の日本は、非常に栄養状態が悪かったからである。~中略~
血管がもろいうえに、強い肉体ストレスが加わって、たやすく血管が破れていたのである。そのため、脳溢血が多発していたのだ。
こうして、「高血圧=脳卒中で倒れる」というイメージが医者や国民の間に広まったのである。
高血圧はほっとくのが一番
松本 光正 (著)
講談社 (2014/4/22)
P53
ひとは患者である前に、まずひとりの生活者です [医療]
「ひとりで死ぬのだって大丈夫」(朝日新聞出版、2014年)の著書、奥野滋子医師は、在宅患者のことばとして「病院に入院すれば私の生活はすべて病気になるの。家にいれば病気は私の生活のたった一部なの」というせりふを紹介しています。
そういえば「患者」という呼び方そのものが、医療者目線です。ひとは患者である前に、まずひとりの生活者です。家では誰もが生活者に戻ります。「患者」であることは、そのひとの全部ではなく一部。
おひとりさまの最期
上野千鶴子 (著)
朝日新聞出版 (2015/11/6)
P83
「真実を伝える医療」か「ウソも方便」か [医療]
医療が高度になるにつれ、心の問題を軽んじる傾向は、どんどん強くなっている。
血圧にも、まさにこのことは当てはまる。数値という非人間性の極みから、人間性を取り戻すことが必要だ。
例えば、患者の血圧が高くても(極端に高い時は別だが)、私はさばを読んで少々低めに言ったり、黙っていたりする。そのまま言えば、心配してもっと高くなるのは、目に見えているからだ。そして「今日は暑いから、家でゆっくりしてくださいね」と言うなどして、できるだけ患者に安心してもらえるよう心がける。
医者はまず患者と顔を合わせ、コミュニケーションを取ることが大切だ。そして「ウソも方便」である。
「真実を伝える医療」が、かえって人間性を踏みにじることも少なくないのだ。
高血圧はほっとくのが一番
松本 光正 (著)
講談社 (2014/4/22)
P133
キュアからケアへ [医療]
P80
「死の病院化」を経過したあとの在宅医療は、それ以前のものとはまったくちがうものになった、と言いました。
それを表現しているのが、「キュアからケアへ」のパラダイム転換です。
このパラダイム転換を領導する鹿児島市在住の中野一司医師によれば、病院は「キュア(治療)」の場、在宅は「ケア(看護・介護)の場。
病院は死と闘う場、在宅は死を受け容れる場。治療をしなければ医師の出番はあまりありません。医師は病院では主役ですが、在宅では、家族や介護職、看護師に寄り添う脇役になります。ケアの現場では医師は、介護職、看護職など多職種連携チームのワン・オブ・ゼムになりますし、そうなったほうがよいのです。
~中略~
在宅看取りの現場を見ると、最近では「看取りに医師はいらない、訪問看護師でけでじゅうぶんだ」という声もありますし、もっと踏み込んで「看取りに看護師もいらない、介護職だけで看取りができる」という声さえあることは前にお話ししました。
P205
もしかしたら、ケアとは「家族には向かない仕事」なのかもしれません。第三者だからこそ、目の前にいる老人をありのままに受け入れることができる、のかも。
後藤さんもこう書いています。
「家族は、認知症で変わり果てた父親や母親に傷ついてしまう。他人ならば病気だから仕方ないと、調子をあわせられるのだが、家族だとそうはいかない。怒ったりいらだったり叱ったりし、悪循環になることも多い。病気を受け入れて、いままでの関係性を変えるのは、そう簡単ではないし、上手に励ましたり、おだてて行動させたり、ときには嘘も方便で演技をする、などということは家族だからこそ抵抗があるものなのだ」
おひとりさまの最期
上野千鶴子 (著)
朝日新聞出版 (2015/11/6)
IBS(過敏性腸症候群) [医学]
P32
もともと、現在IBS(住人注;過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome))と呼ばれるような病気があるのではないかと概念的に考えられ始めたのは、アメリカの南北戦争の時である。
南北戦争の時、兵士の中に極端な腹痛や下痢など強い消化器症状のために前線に出られないという人が続出した。
当時、アメリカ陸軍省の医務官だったダ・コスタが神経が原因で消化器症状が出ることがあることを報告し、神経性の大腸症状という概念が誕生したのである。
戦争は、通常では考えられないほどに極度のストレスが生じる状況である。このため、戦争を契機として、新しい病気の種類が提案されることがあるのだ。
たとえば、外傷後ストレス障害(Post-traumatic Stress Disorder:PTSD)もベトナム戦争の時に概念化された。
P33
キャノン(住人注:ウォルターキャノン(Walter B.Cannon,1871-1945))は、怒りや恐怖などの情動と同時に消化管運動が変化することを発見したが、その時、彼はまだハーバード大学医学部の学生であった。
当時、ドイツのレントゲンによってX線が発見されたばかりであったが、キャノンはX線を使えば、生体の内臓の情報が得られるのではないかと考えたのである。~中略~ ネコを使って実験をしていたある日、恐怖によって身をすくめているネコの胃腸の運動が静止していることにキャノンは気づいたのである。
ハーバード大学の図書館に行くと、今もこの時のキャノンの自筆の実験ノートが残されている。
P35
キャノンの時代にアメリカで活躍する二人の日本人がいた。野口英世と高峰譲吉である。野口英世はロックフェラー研究所におり、病原微生物狩人として、多数の実験動物を使っていた。そのため、動物実験に反対する団体の標的にされ、一時は研究者生命の危機に立たされた。
キャノンは野口への攻撃の中に東洋人への偏見が含まれていることを見抜き、適切な動物実験が医学と医療の進歩には必要不可欠であることを説く、堂々とした論陣を新聞に展開し、野口の危機を救った。
高峰譲吉は消化酵素タカ・ジアスターゼの発見の後、キャノンと副腎髄質ホルモンの抽出競争に入り、二人はいわばライバル関係にあった。しかし、高峰が副腎髄質抽出物のホルモン単離に成功し、これをアドレナリンと命名すると、この業績を素直に認め、むしろその生理作用の解明に心血を注いだのである。
内臓感覚―脳と腸の不思議な関係
福土 審(著)
日本放送出版協会 (2007/09)
先生に治せますか? [医療]
この何気ない言葉に、IBSの治療のさまざまな側面が含まれている。この人は、多くの病院を受診したが、症状が続くために、転院を繰り返し、著者を受診したのである。
読者の皆さんはこの言葉をどう思うであろうか。おそらく、その人の経験や立場により、さまざまな感想を持つのではないだろうか。
報道関係者の中には、医師は富裕層に属し、分不相応に儲けているという先入観を持つ人がいるようである。そんな人は、日本の医療のあり方の悪さのため、患者がたらい回しにされている、と問題提起をするかもしれない。
医療関係者の読者は、初診から失礼な言辞を弄する患者を、身を削って診療しているわれわれがなぜ腰を低くしなければならないのか、と思うであろう。
あるいは、特定の分野の専門家であれば、そこで「私になら治せます」と言えないようでは専門家ではないという意見の人もいるだろう。
一方、医療機関で不快な思いをしたことがある人は、患者には権利があり、医者はサービス業なのでるから、このくらいのことを言っても当然と思うかもしれない。
世間の常識にうるさい人は、医師に道徳を求めるならば、患者も礼儀正しくふるまうことは当然であり、ここにも現代日本のモラルの低下が現れている、と分析するであろう。
数多くのIBS患者の診察にあたっていると、こんな経験をすることはさほど珍しくない。
もっと言えば、医療ではどのような側面でも、医師と患者の関係が基本にある。
いくら技術が進歩しても、よい医師―患者関係なくしてはより良い医療はあり得ない。医師も患者も不必要な先入観にとらわれず、良好な医師―患者関係を作りながら医療を進めていくのが重要である。
よい関係を作るには、医師の側の技術に裏打ちされた人間性が要る。
この患者の場合、「先生に治せますか?」という問いには、回復を阻む無意識の心理が潜んでいる。
「私になら治せます」「私には治せません」のいずれの答えも回復を阻む心理の陥穽(かんせい)に入ることになる。
内臓感覚―脳と腸の不思議な関係
福土 審(著)
日本放送出版協会 (2007/09)
P131
悪い知らせ [医療]
P1
医療における悪い知らせとは「患者の将来への見通しを根底から否定的に変えてしまう知らせ」と定義されている2)。
例えば、交通事故で子どもが亡くなったことを親に伝えることや,精神疾患の診断名を患者に伝えることなどがあげられるが,かん医療においては、がん(とくに難治がん)の診断や再発、積極的抗がん治療の中止といった知らせが含まれる。
P37
危機的状況に際してがん患者は衝撃を受ける。”頭が真っ白になった”と表現することもある。その後,がんという生命の危機への最初の防衛機制は”信じないこと=否認”である。「何かの間違いではないか!」という否認は,こうして心理的に距離をおいて,危機から自分を守ろうとする合目的的な対処方法である。
そのほか,”もう駄目だ,治療も無駄だ”と絶望感を感じる。
怒り(どうしてあいつでなく自分なんだ)や取り引き(きっといい治療法が間に合うに違いない)といった防衛機制を状況に応じて使って心のバランスを保ち,一貫して希望をもち続ける。がんの臨床経過にそって段階的に心理的過程を踏んで進んでいくというよりは,混在した機制をもっていると理解したほうがよい5)。
この最初の2~3日間続く衝撃の時期の患者は,医師の説明が理解されていないこともあるので,治療計画などを伝えるには,沈黙を十分にとりながら動揺した気持への対応が必要である。 混乱・不安・恐怖・悲哀・無力感・絶望感などとともに,不眠・食欲不振などの身体症状や集中力の低下が感じられるようになり,一時的に日常生活に支障をきたす場合もある。
P40
がん患者の約60%は,がんの再発,進行,死の転帰をたどる。再発を告げられた患者の心理過程はがん診断時のそれとほぼ同様である。が,がんの知識が豊富に整理されている分,事態はきわめて深刻で,現実を否認しきれず破局的な打撃を受ける。
P108
がん医療における悪い知らせは,患者のみならず,がん患者家族にも伝えられる場合が多い。そのため,家族は医療者とのコミュニケーションの充実を望んでいる。また,がんに関連した悪い知らせが患者に告げられると,家族全体に大きな変化が生じる。それらの変化は精神的な面だけではなく,患者の身の回りの世話などの家族の仕事量の増加,家族間の役割の変化,経済的負担の増大など幅広い。
このようなことから,がんは「家族の病」ともいわれている。
P109
1998年に作成されたがん告知のガイドラインでは,「家族には患者より先に伝えない」,すなわち,まずがん患者に伝え,次に患者の了承を得た後に家族にがんを伝えることを推奨している3)。
また,がん診断告知の有無によって患者の精神的苦痛(不安・抑うつ)は変わらないことが示され4),「がん診断を患者に告知することで,患者の精神的苦痛が増すのではないか」という家族の不安は必ずしも真実とはいえないことが示された。
さらに2003年に実施したがん患者を対象とした悪い知らせを伝える際の意向調査では,悪い知らせを家族に先に知らせることを望まない70%,どちらともいえない23%,望む7%であり,患者自身も悪い知らせを家族に先に知らせることを望んでいないことが明らかになった5)(図11-1)。
P110
医師から悪い知らせが伝えられた後,そのときの場面を思い出すとつらくなるのは,多くの患者や家族が経験することである。またその苦痛がとくに強い場合は,本人の意思に反して,今まさにそのトラウマ体験をしているかのような現実感を伴うフラッシュバックとよばれる侵入症状をはじめとした,PTSD(posttraumatic stress disorder)症状を呈する患者や家族がいることも報告されている。 家族は伝えられた悪し知らせの内容だけでなく,そのときの医師の口調,言葉遣いといった言語的要素や身振り,視線,表情といった非言語的要素を総合的に記憶している。このようなことから,悪い知らせを伝えるときには,患者や家族にできるだけ精神的苦痛を与えない伝え方の技術が必要である。
がん医療におけるコミュニケーション・スキル―悪い知らせをどう伝えるか
内富 庸介 藤森 麻衣子 (編集)
医学書院 (2007/10/1)
![がん医療におけるコミュニケーション・スキル[DVD付]―悪い知らせをどう伝えるか がん医療におけるコミュニケーション・スキル[DVD付]―悪い知らせをどう伝えるか](https://m.media-amazon.com/images/I/5160LuzDX8L._SL160_.jpg)
がん医療におけるコミュニケーション・スキル[DVD付]―悪い知らせをどう伝えるか
- 出版社/メーカー: 医学書院
- 発売日: 2007/10/19
- メディア: 単行本
心房細動 [医学]
P3
心房細動は不整脈の一種です。非常に患者数が多く、「21世紀の心臓の流行り病」といわれています。特に高齢者に多く、超高齢化社会を迎えたわが国では社会問題となりつつあります。
心房細動では脳梗塞を合併することが最大の問題です。なぜなら、心房細動に合併する脳梗塞は特に重症となり、12%の人が数日で亡くなり、40%の人が寝たきりあるいは要介護となるからです。
例えば、故小渕恵三元首相やダイエー創業者の故中内功氏は心房細動に合併した脳梗塞が原因で亡くなられています。
P48
心房細動の3大症状は、「動悸」「めまい」「息切れ」です。
P51
ところでページ数をとって3つの症状について説明しましたが、なんと心房細動患者の40~50%の人、すなわち2人に1人近くは何の症状も感じないのです。これを「無症状」といいます。
P66
心房細動の2分の1近くを占める無症状の人では、もうお手上げです。実際に診断がついている患者さんが90万人いるのにたいしいて、推定患者数が170万人、すなわち約80万人の心房細動の診断がついていない隠れ心房細動の患者さんがいることになります。この隠れ心房細動の患者さんにこそ、高い頻度で脳梗塞が起きるのです。
皮肉なことに、脳梗塞が起って初めて、隠れ心房細動であったことが分かることもあります。長嶋茂雄・元巨人軍監督はこのタイプだったといわれています。脳梗塞を起こして病院に運ばれて初めて心房細動であったことが分かったそうです。
心房細動のすべて ――脳梗塞、認知症、心不全を招かないための12章
古川 哲史 (著)
新潮社 (2018/12/14)

心房細動のすべて ――脳梗塞、認知症、心不全を招かないための12章 (新潮新書)
- 作者: 古川 哲史
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2018/12/14
- メディア: 新書
医は仁術 [医療]
「なにを云うか」と去定がいきなり、烈しい声で遮った、「医が仁術だと」そうひらき直ったが、自分の激昂していることに気づいたのだろう、大きく呼吸をして声をしずめた、
「―医が仁術だなどというのは、金儲けめあての藪医者、門戸を飾って薬札稼ぎを専門にする、似而非(えせ)医者どものたわ言だ、かれらが不当に儲けることを隠蔽(いんぺい)するために使うたわ言で」
登は沈黙した。
「仁術どころか、医学はまだ風邪ひとつ満足に治せはしない、病因の正しい判断もつかず、ただ患者の生命力に頼って、もそもそ手さぐりをしているだけのことだ、しかも手さぐりをするだけの努力さえ、しようともしない似而非医者が大部分なんだ」
赤ひげ診療譚
山本 周五郎 (著)
新潮社; 改版 (1964/10/13)
P372
患者さんにとって信頼できる主治医の条件 [医学]
話しやすいと感じる人物
長くつき合えそうな人物
薬の説明をきちんとする
治療の根拠を示す
病状の説明に応じる
大切な人の「こころの病」に気づく 今すぐできる問診票付
日本精神科看護技術協会 (著), 末安民生 (著)
朝日新聞出版 (2010/11/12)
P236

大切な人の「こころの病」に気づく 今すぐできる問診票付 (朝日新書)
- 作者: 社団法人日本精神科看護技術協会 末安民生
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2012/08/01
- メディア: Kindle版
モルヒネ [医学]
P190
非常に多くの鎮痛薬なるものが臨床の場に登場しては、いつの間にか潮が引くように消えてゆくなかで、紀元前四千年頃からモルヒネは、常に確固とした地位に君臨しつつ現在にいたっている。モルヒネにまさる鎮痛薬は今までもなかったし、今後も出現する可能性はきわめて少ない。
自然界に存在する植物のケシから抽出されたアヘン(麻薬類)は、シュメール人によってはじめて使用されたという。ギリシア人は、ケシの抽出物の作用は眠りの神(ヒポノス)、夢の神(モルフェウス)によるものと信じ、モルヒネという名前がつけられたとされている。
P191
モルヒネに関して重要なことは、モルヒネに対して根強く定着している誤解を解くことであろう。
モルヒネは鎮痛薬として他のいかなる鎮痛薬よりもすぐれているにもかかわらず、モルヒネに関する誤解はあまりにも多く、しかも根強い。この誤解は、多くの医師にとって確信に近いものであるため、一般の人たちにとっても患者にとっても、当然のごとく誤った知識が定着している。また、モルヒネに対する誤解を、マスコミもまたモルヒネと覚醒剤を混同してヒステリックに報道しつづけてきている。
P195
痛みさえなくなれば、麻薬をほしがることは普通の場合には見られない。アルコール中毒患者が酒の味よりもアルコールそれ自体をほしがると同様に、麻薬中毒患者は痛みとは関係なくモルヒネをほしがる。したがって、アルコール中毒患者と同様にモルヒネに関しても、モルヒネ中毒患者は実在する。~中略~
モルヒネ中毒患者が実在するという理由で、何ものにもまさるモルヒネの鎮痛効果の実用的な価値を否定することは、「風呂の水と一緒に赤ん坊まで捨ててしまう」ことになるといわなければならない。
痛みとはなにか―人間性とのかかわりを探る
柳田 尚 (著)
講談社 (1988/09)

痛みとはなにか―人間性とのかかわりを探る (ブルーバックス)
- 作者: 柳田 尚
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2023/04/27
- メディア: 新書
慢性炎症→線維化→発がん [医学]
肝臓は比較的再生能の強い臓器なのですが、炎症が何年にもわたると、それにも限界がでてきます。また、慢性炎症の状態は臓器に線維化を引きおこします。
線維化というのは、線維芽細胞が増殖し、もともとあった細胞がなくなって、コラーゲンなどの線維成分が沈着するようになった状態です。
他の臓器では、たとえば肺繊維症とかいうように、○○繊維症という言葉が使われるのですが、肝臓の場合は、一般的には肝繊維症とはいわずに、肝硬変と呼ばれます。
いずれのウイルス(住人注;B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルス)にも、発がんに直接関係する遺伝子があるわけではありません。長期間にわたって細胞の再生と炎症が継続されることにより、遺伝子に突然変異の生じることが、B型、C型肝炎ウイルスによる発がんの主たる要因とされています。
ですから、抗ウイルス薬でウイルス感染をなくしてやれば、かなり肝発がんも抑えることができるはずなのです。
こわいもの知らずの病理学講義
仲野徹 (著)
晶文社 (2017/9/19)
P293
AIが診断して治療法を選択する [医療]
P357
膨大な情報に基づいた治療選択が必要な時代がやってきました。それは、ある患者さんの悪性腫瘍のゲノム情報であり、また、その悪性腫瘍に対する薬剤、治療法の情報です。よほどの専門家でない限り、それらすべてを頭に入れて適切に判断することは難しくなってきています。
現実はもっと進んでいて、人間の頭では判断しきれない時代になってきているというべきかもしれません。そこで必要になってくるのが人工知能、AIです。
~中略~
たとえば、放射線診断、レントゲンを見て異常があるかどうかの診断、は、いずれAIに取って代わられるだろうとされています。症状や検査値からの病名診断はすでにかなりの確度でおこなうことができるようになっていて、よくある病気については、ベテランの医師と同程度の正しさです。それどころか、希な疾患については、AIが圧勝です。
この本を書いている間にも、膨大な医学論文を学習したAIが、患者さんの白血病細胞のゲノム分析から、二次性白血病であることを言い当てたという報道がありました。
P359
(住人注;IBMの)ワトソンは、開発当時から、医療や医学教育への応用が始められています。ワトソンだと、医学部の忙しい先生と違って、学生のアホな質問にも怒らず丁寧に答えてくれるだろうし、どんな時間帯でも教えてくれるだろうし、いいことずくめかもしれません。それに、すべての文献に目を通す、というか、すべての文献をデータベースとして記憶できるのですから、最新のことも教えてくれます。いずれ、医学教育も大きくかわっていって、教授なんかいらなくなるかもしれません。
こわいもの知らずの病理学講義
仲野徹 (著)
晶文社 (2017/9/19)
人生いろいろ 痛みいろいろ [医学]
例えば、むし歯による痛みがあるとする。この痛みは純粋な意味で、からだに起因した痛みであるから、むし歯を治療することにより、完全になおすことのできる痛みである。むし歯が痛いということは、気が重く、決して晴ればれした「心」にはなれないものである。
しかし、むし歯が完全になおって痛みも完全に消えれば晴ればれとした「心」になるのはきわめて自然の経過であり、ほとんどの人たちは、このような経過をたどるはずである。
しかし、むし歯になる以前から、心に起因する痛みを、からだのどこかに訴えていたり、あるいは、精神疾患に起因する痛み、さらには人間性に起因する痛みをたえず訴えつづけているような人であれば、この人は、むし歯の痛みと心の痛み、精神疾患の痛み、それに、この人の人間性による痛みとが混然一体となり、それぞれの痛みが、それぞれの痛みを増強させる結果となる。
この人にすれば、「歯が痛い」と訴えているつもりではあるが、歯以外の痛みも同時に、次々と訴えるために、結果として、焦点がしぼり切れず、とりとめのない訴えとなってしまう。
例えば、歯の痛みを治療している時は手の痛みを訴え、手の痛みを治療しているときには腰の痛みを訴え、腰の痛みを治療しているときには頭の痛みを訴える。
さらに厄介なことには、むし歯に対して行った適切な治療それ自体を新しい痛みとして訴えることである。このようなことは、むし歯だけにかぎらず、手でも足でも、からだの中いかなる部位であっても、そこに加えた治療上の処置が引き金となって、その部位の痛みを訴えることもある。
むし歯の治療や口腔内手術の後に、二次的に出現する痛みも時には存在する。したがって、訴える人の痛みは、治療上の処置によって二次的に発生したからだの異常に起因する痛みであるのか、本来この人が有する「心」「精神疾患」、あるいは「人間性」に起因する痛みであるのかを見分けることは非常に重要なことである。
この意味でも、このような人の訴える痛みに対しては、もつれにもつれた糸を、一本一本ときほぐすような対応が必要になってくる。
このように、本人の訴える痛みのなかで、四つの原因、すなわち、「からだ」「心」「精神疾患」「人間性」が、どの程度の割合で混在し、それぞれがどの程度影響し合っているかによって、訴える痛みの内容は異なってくる。そして当然のことながら治療法も異なる。
痛みとはなにか―人間性とのかかわりを探る
柳田 尚 (著)
講談社 (1988/09)
P42

痛みとはなにか―人間性とのかかわりを探る (ブルーバックス)
- 作者: 柳田 尚
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2023/03/14
- メディア: 新書