SSブログ

科学も国策 [社会]


 第一次世界大戦でのドイツの軍事力の背景にあった科学技術の水準の高さは、対戦国に大きな脅威を与えました。
ドイツでは一九一一年、カイザー・ヴィルヘルム科学振興協会が設立され、「国防に科学を役立てる」目的で、多くの専門分野の研究所を運営する母体となり、有事の際に備えていたのです。

科学者は戦争で何をしたか
益川 敏英 (著)
集英社 (2015/8/12)
P44


DSC_2925 (Small).JPG千手観音堂 岩屋山泉水寺

P45
 日本でも科学研究を国策に役立てるという認識が急速に高まり、一九一七年に理化学研究所が設立されます。STAP細胞不正論文問題で話題になったあの理研の前身です。
第一線の物理学、化学の研究者を動員し、第二次世界大戦の最中には、国策として秘密裡に原子爆弾の研究もしていたようです。
一九三二年に創設された日本学術振興会は、政府の補助金および民間の寄付金によって、自然科学、社会科学全般にわたっての研究支援を行う機関でしたが、日本が軍国主義への傾斜を強める中で、その研究は軍事目的のために取り込まれていくことになります。
科学に国境はなくても、祖国が戦争に巻き込まれていけば、否応なく科学者たちは軍事目的のため駆り出され、愛国心を強いられることになるのです。

P46
 アメリカも、ヨーロッパの列強に負けじと第一次世界大戦を契機に科学政策の強化を図り、一九一六年にアメリカ学術研究会議を設立し、一九三三年にはニューディール政策のより強力な諮問機関として科学顧問会議を設置します。
 第二次世界大戦勃発後は、国防研究会議を設けて本格的に科学技術の再編に乗り出し、一九四一年には、軍事研究に関わる基礎研究から兵器生産ラインに至る全組織を統括する、科学研究開発局を創設。ここではレーダーや電子計算機、ペニシリンなどの研究開発が行なわれていました。
~中略~
ハンガリーから亡命した物理学者のレオ・シラードは、天然ウランを暴走させることで新型のウラン爆弾をつくるというアイデアを、アインシュタインの署名を借りて、アメリカのルーズベルト大統領宛に書簡で送っているのです。
 ユダヤ系であったシラードは、すんでのところでナチスの手を逃れて以来、科学者の責任として、ドイツが先んじて原子爆弾開発を成功させるようなことは決してあってはならないと考えました。ナチスがウランをかき集めていることを知っていたからです。それならばドイツの敵国であるアメリカに自ら協力して原子爆弾の完成を急がせた方がいいと判断したわけです。
~中略~
 しかし、シラードが一科学者として取った社会的行動も、やがてアメリカでの原子爆弾の完成が近づくにつれ、空しいものへと変わっていきます。
一九四五年春、ドイツの降伏が決定的になり、もはや原子爆弾の完成を急ぐ意味がなくなったからです。
 戦況が連合軍に傾く中、アメリカは最後まで抵抗しようとする日本に原子爆弾投下を決定しました。シラードはもともと戦争廃絶の理想を掲げる平和主義者でしたから、この決定に異を唱え、それに賛同する何人かの物理学者とともに、無警告で日本への原子爆弾投下に反対する請願書を書きました。少なくとも自分が進言し、開発に関わった兵器の使い道に発言する権利は残されていると考えていたからです。
けれど、彼らの発言も請願書も、結局何の抗力も持ちませんでした。政府は彼らの進言など聞く耳を持たず、日本に二発の原子爆弾を落としました。

P67

 第二次世界大戦が終結して、その二十数年後にジェーソン機関の存在が明らかになったことは、実に象徴的なことであると思います。アメリカが科学者を大動員して原子爆弾製造に拍車をかけた「マンハッタン計画」と、何ら変わっていないからです。
国家をあげての大動員が秘密組織に変わっただけで、科学者を動員して殺人兵器を開発するという構造は全くそのままです。

P92
 坂田先生は、湯川秀樹、朝永振一郎との共著「平和時代を創造するために―科学者は訴える」(岩波新書)の中で、イギリスの物理学者バーナルの言葉を引用しています。
「資本主義国においては、科学者はもはや自由職業ではなく、政府か独占資本の使用人でしかない。
科学の成果がなにに用いられるかは、科学者の意図とは無関係に、政府と独占資本の意志によって決定される」と。
そんな強い懸念を持っていたバナールは、科学者が政府や独占資本の使用人にならないためには、組織をつくって立ち上がらなければならないと主張しています。
 そして今や、バナールの言う通り、軍学共同、産学共同の流れは、科学者の個人的な力ではどうにもならないところまで来てしまっています。


タグ:益川 敏英
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント