大和古寺の塔 [見仏]
大和古寺には様々な塔がある。法隆寺の塔の持つ巍然(ぎぜん)たる威容は、上宮太子の御人格そのままと申していいほど立派なものである。
鳥仏師の釈迦(しゃか)三尊にみられるような、絶対帰依(きえ)に由(よ)る厳格さを偲(しの)んでもよかろう。
また法起寺と法輪寺の三重塔は飛鳥の小仏のごとく古僕(こぼく)で可憐な一面を持つ。二上山を背景に、中腹に立つ当麻寺の東西両塔の典雅な有様、あるいは室生寺(むろうじ)の大杉の間に立つ五重塔の華麗な姿も忘れられない。
しかし私は結局、薬師寺の東塔に最も関心するのである。~中略~ 西塔はすでに崩壊して、わずかに土壇(どだん)と礎(いしずえ)を残すのみであるが、東塔はよく千二百年の風雨に耐えて、白鳳の壮麗をいまに伝えている。
某という僧が定(じょう)に入って夢みた竜宮の塔を、うつつに現出したものといわれるが、かような様式はわが国にも唯(ただ)一つこの東塔あるのみ。
―昭和十七年秋―
大和古寺風物誌
亀井 勝一郎 (著)
新潮社; 改版 (1953/4/7)
P160
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