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第三の痛み [医学]

 第一の痛みは、最初に感ずる瞬間的な「ショック」「驚き」であり、すぐそれに引きつづいて感ずる第二の痛みが、いわゆる「痛み」であると述べた。この第二の痛みは、机にぶつけたための膝の傷が、治療により、あるいは自然に治癒することにより、痛みもそれに伴って消失するものである。
 しかしながら、傷が完全に治癒した後にも、痛みだけが長期にわたって存在することがある。
このような痛みを、筆者は「第三の痛み」とよんでいる。そして、この第三の痛みは「慢性痛」という痛みである。
 第三の痛みは非常に厄介な痛みで、周囲の人にはわかりにくい痛みである。そして、このような長期におよぶ痛みであればあるほど、痛みの表現は、より複雑になり、抽象的な表現になりやすい。
 例えば、「からだ全体がすっきりしないような痛み」「からだがもやもやしてくると痛む」「痛いというのではないが、なんだかわからないような痛み」などと、「痛い」という表現を使って、自分の悩みや苦しみを同時に訴えることが多い。そして、自分の訴える痛みが相手によく理解されないために、ますます複雑で、その時その時の訴える内容が矛盾するような表現となる傾向が認められる。
「痛い」という表現には、痛み以外の感覚を例にとるならば、二度と口にしたくない味覚、聞きたくない聴覚、決して見たくない視覚などのように、現状に対する否定と、現状から脱却したいという逃避の願望がこめられており、その手段として、「痛い」という表現を使うことが多い。

痛みとはなにか―人間性とのかかわりを探る
柳田 尚 (著)
講談社 (1988/09)
P28

 

DSC_4498 (Small).JPG薦神社


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