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痛みに人間性が出る [医学]

 痛みを訴えてはいるが、食欲は旺盛であるというのであれば、食事中は、あまり痛みを意識していないか、あるいは、食欲を阻害しない程度の痛みであると推測してもよさそうである。
痛みのために、一睡もできないというのであれば、激しい痛みであると推測される。しかし、普段から、よく眠れない人であるならば、眠れないことが、この人の痛みに関与している可能性もある。
 痛くて眠れないのか、眠れなくて痛いのかを明確に区別することもきわめて重要である。痛みを訴える側の人は、例外なく「痛くて眠れない」といういい方をするが、実情と違うことが多い。
 足が痛いと訴えながらも、トイレには軽々と走っていくようであれば、その時点での訴えている足の痛みは、トイレに対する要求度よりも、小さいと推測できそうである。

痛みとはなにか―人間性とのかかわりを探る
柳田 尚 (著)
講談社 (1988/09)
P20

 

痛みとはなにか―人間性とのかかわりを探る (ブルーバックス)

痛みとはなにか―人間性とのかかわりを探る (ブルーバックス)

  • 作者: 柳田 尚
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/09/05
  • メディア: 新書

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P40
 例えば、バラのトゲが手にふれてチクッと痛くなったとき、「イテ・・・・・・」と一瞬、仕事を中断するが、その後に残る少々の痛さを気にかけず、その手を休めながらも、そのまま仕事を平気でつづける人(物事にこだわらない性格)、すぐに仕事を休んで病院にかけつけ包帯をぐるぐる巻きにして注射をしてもらわないと気がすまない人(神経質な性格)、家に帰った後が心配なので、薬を大量にもらわないと気がすまない人(心配性な性格)もいる。
このようなバラのトゲに対する対応の違いは、人それぞれの性格の差として解釈してもよさそうである。
 しかし、入院させてくれと大騒ぎする人、手にふれたバラが隣家の所有物だからといって、隣人に賠償金を要求する人、勤務中の出来事だからといって公務傷害保険の適用と公休を要求する人などは、性格の差としてではなく、その人の人間性に起因するものと解釈すべきであろう。 バラのトゲ一本のかすり傷はその人の”本性”をいみじくも浮き彫りにしてしまう。
 バラのトゲに対する対応の差異は単純に、その人の”性格”による差異だけで解釈し得る場合もあるが、もっと基本的な人間性の差異、つまり、その人の”本性”による差異と解釈せざるを得ない場合もある。ここでいう”人間性”とは、このような意味である。

P21
 基本的には、痛みを訴える人の人間性を追求するという点に、最終目標を設定せざるを得ない。しかし、人間が人間を評価すること自体、大きな誤りを犯す可能性は常に秘められてはいる。
 痛みの診療には、痛む人の身になって、お互いが人間同士である、という基本的な立場から痛む人に温かい血のかよい合った人間として接するという一面と同時に、痛みの診断には、患者の訴えを、むしろ冷厳に受け止める一面も不可欠である。


タグ:柳田 尚
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