予防 [言葉]
予防とは、予告された望まれない出来事が、可能であるが実現はしないことが前提である。
出来事が可能でなければ、われわれが行動する理由はない。しかしわれわれの行動が有効なら、出来事は実現しない。
未来の追悼──『ツナミの小形而上学』より
ジャン・ピエール・デュピュイ (哲学者)、訳=橋本一径
この文章は二〇〇四年暮れのスマトラ沖地震による大津波災害に接してかかれた「ツナミの小形而上学」(Jean-Pierre Dupuy,Petite metaphysique des tsunamis,Seuil,2005)の巻頭の一節である。
西谷 修
世界 2011年 05月号
岩波書店; 月刊版 (2011/4/8)
P96
P94
予防とは、ある望まれない可能性が、現実化しない可能性の存在論的な領域に送られるようにすることである。
大惨事は、実現しなくとも、可能という身分を保ち続けるだろう。
しかしそれは実現がまだ可能だと言う意味ではなく、実現したかもしれないということが、永遠に真であり続けるという意味である。
大惨事が迫っているということを、それを避けるために告げるとき、この告知は語の厳密な意味での予見(予め;プレ=見る;ヴィジョン)という身分は持たない。
この告知には、未来がどうなるかを述べるなどという驕りはなく、単に注意せずにいたらどうなるかを述べているだけなのだ。
ここにはいかなる結びつきの条件も介在しない。つまり告げられた未来は現実の未来に合致する必要はなく、予測は現実化する必要はない。
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