可能性はゼロではない [社会]
原子力安全委員会の委員長で、原子力工学の専門家である斑目(まだらめ)春樹・元東大教授は四年前、「(あらゆる事態を想定していたら)原発は作れない」と国会で答弁した。
それを言っちゃあ、おしまいよ、とつっこみを入れたくなるが、まさに人間の営みの限界を言い当てている。
人間とはしょせんその程度であって失敗するものなのだ、という思想において、欧州の人たちは日本人より賢明だ。
「ネバー・セイ・ネバー」(絶対ない、とは絶対言うな)。これが、人工的なシステムを構築する時の命題になっている。
日本だって、科学者や技術者全員が「100パーセント安全も、リスクゼロもない」ことを知っている。だが、それが社会に根付く過程で「安全神話」になるのは不思議だ。
たとえば自分の街に原発を建てたいという電力会社の人がこんな説明をしたら、真っ先に反対する。
「この原発は、一定の確率で必ず事故を起こします」
だが、「絶対に事故を起こさないとは言えませんが、あり得る事態を想定して、全力で安全対策を講じます」と言われたら、少しは考えてみようかなと思うだろう。
しかし、その言葉を裏返せば「想定外のことが起きたら保証の限りではありません」という事実が隠れている。それが今回の本質だ。
彼らが「想定外」を免罪符にするのは論外だが、私たちも「想定外の事態が手に負えなくなるようなことには手を出さない」という賢明さを求められている。それも甘受するというなら別だけれども。
気になる科学 (調べて、悩んで、考える)
元村有希子 (著)
毎日新聞社 (2012/12/21)
P204
タグ:元村有希子
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