SSブログ

人類みな親戚 [雑学]

DNA解析をする学問を分子生物学と言いますが、二〇世紀の終わりの一〇年間に、分子生物学は人類学の分野で二つの大きな貢献をしています。
それらはいずれも人類学の分野に大きなインパクトを与え、分子生物学的な研究が人類の分野で持つ大きな可能性を示したものでした。
ひとつはミトコンドリアDNAの多様性から導かれた新人ホモサピエンスのアフリカ起源説です。それはこれまで主流の学説だった、人類の進化は一〇〇万年以上前にアフリカを旅立った原人が各地で独自の進化を進めてそれぞれの地域の新人に移行したという「多地域進化説」を全面的に否定するものでした。
新人のアフリカ起源説は、現生人類はすべて二〇万~一〇万年前にアフリカで生まれ、七~六万年ほど前にアフリカを出て全世界に広がったものだと主張します。この説にしたがえば北京原人やジャワ原人、あるいはネアンデルタール人といった各地の先行人類はすべて絶滅したことになります。じゅうらい考えられてきた人類の歴史を根底からくつがえす学説です。
~中略~
 人類進化の過程から考えれば、私たち現代人が生まれたのは非常に新しい時代であるとするこの学説は、人類学の進化の分野だけではなく社会にも大きな影響を与えるものでした。
なぜなら、この学説は、いわゆる「人種」というものの歴史の短さを示しているからです。ヒトの生物学的な分類基準である人種区分は、人類の歴史のなかでいわれのない差別を生む原因となっていました。人種というものに積極的な価値を持たせようとする人の多くは、その成立の歴史が非常に古いものであると捉えていましたから、この学説は、そのような考えの持ち主にダメージを与えるものだったのです。
 もうひとつの成果は、ネアンデルタール人の系統に関する問題です。二〇万~三万年前まで、ヨーロッパから中東の地域に住んでいたネアンデルタール人と私たちの関係については、一〇〇年以上にわたって論争が繰り広げられてきました。~中略~
一九九七年ついにネアンデルタール人骨からDNA抽出に成功します。このDNAの解析の結果、彼らは私たちと七〇万~五〇万年前に分かれたグループであることが判明したのです。現代人のDNAを用いて導かれた新人のアフリカ起源説は、その学説が予想したネアンデルタール人と新人の関係を、古代DNA分析の技術によって確実なものにしたのです。


日本人になった祖先たち―DNAから解明するその多元的構造
篠田 謙一 (著) 
  日本放送出版協会 (2007/02)
P6










DSC_0620 (Small).JPG鶴林寺 (加古川市)


P192
 さらにアフリカ以外の世界中のY染色体の系統は、六万八〇〇〇年ほど前に誕生したこともわかりました。
つまり男性はこの時期にアフリカから世界に向けて旅立ったことになるのですが、この数字は、ミトコンドリアDNAから導かれた女性の旅立ちの時期とほぼ一致しています。最初の「出アフリカ」は男女が同時に成し遂げたものと考えられますから、この結果も当然のことでしょう。

P205

言うまでもないことですが、日本という国ができる以前に、日本列島には人々が住んでいました。
人がいて国ができたということは、国というものの有り様を考えるときに、大切な認識だと思います。
そして私たちの直接の祖先である人々と、親戚に当たる人たちの子孫が日本の周辺には住んでいます。
とかく国同士の関係は、近いところほど複雑になるのですが、そこに住んでいる人たちのルーツを中心に考えれば、本質的にはいがみあう必然性がないことがわかります。


P206
  日本人の先祖集団の成立に際しては、大陸の広い地域の人々が関与したために、私たちの持つDNAは、東アジアの広い地域の人々に共有しているのです。これはこの地域に限ったことではなく、多くの研究で、地理的に隣接する集団が互いに似た遺伝子を持っていることが示されています。
たとえばレバノン人のY染色体DNAを用いた研究でもキリスト教徒とイスラム教徒が互いに似たハプログループを持っていることが明らかとなっています。地理的に近い集団ほど類似した遺伝子構成を持つというのは普遍的な現象なのです。
悲しいことに、隣接した国同士ほど、いがみ合いの歴史を持っているというのも普遍的な現象なのですが、隣接して暮らす人々同志は、実は地球上でもっとも多くのDNAを共有する人々なのです。


P78
私は、ヒトのミトコンドリアDNAについてバークレー・グループが独創的な分析によって達した結論を紹介しようと思う。
彼らの結論はきわめて興味深く、かつ刺激的だった。それによると、最節約的な系統図はアフリカにしっかりと根をおろしていた。これが何を意味するかというと、一部のアフリカ人はほかのアフリカ人との類縁が、世界中の他の地域のどの民族とよりも遠いということである。
世界の他の地域の人びと全体―ヨーロッパ人、アメリカ先住民、オーストラリア先住民、中国人、ニューギニア人、イヌイット人などすべての人びと―は、一つの比較的緊密なグループを形成している。アフリカ人の一部はこの緊密なグループに属するのである。だが、それ以外のアフリカ人はちがう。 ~中略~ そこでバークレー・グループはわれわれすべての大祖先はアフリカに生きていた、すなわち「アフリカのイヴ」であると結論した。

P80
 ミトコンドリアのイヴがアフリカ人だったかどうかはともかく、別の意味でわれわれの祖先がアフリカからやってきたことは疑いもなく真実である。こう言うと混乱しそうなので、まず整理することが肝要である。
ミトコンドリアのイヴはすべて現生人類の最も新しい祖先である。彼女はホモ・サピエンスという種の一員だった。
もっとはるかに古い原人やホモ・エレクトスの化石はアフリカはもとより、それ以外の地域でも発見されている。ホモ・ハビリスやアウストラロピテクスのさまざまな種のように、ホモ・エレクトスよりもっと遠い祖先の化石はアフリカでしか発見されていない。
だから、もしわれわれが二五万年前ごろにアフリカから四方に離散(ディアスポラ)したものの子孫だとするなら、それは2回目のアフリカからの離散だということになる。
もっと以前、おそらく一五〇万年前に大脱出があって、そのときにホモ・エレクトスはアフリカからあてもなくさまよいいでて、中東やアジアの各地に移住したのだ。
アフリカのイヴ説は、これらの大昔のアジア人が存在しなかったと主張しているのではなく、彼らが生きのびる子孫を残していないと主張しているのである。どちらの観点から眺めても、二〇〇万年前までさかのぼれば、われわれはつまるところ、アフリカ人なのである。
アフリカのイヴ説はそれに加えて、わずか数十万年前までさかのぼると、現在生きているわれわれ人類はみなアフリカ人であると主張しているのだ。

遺伝子の川
リチャード ドーキンス (著), 垂水 雄二 (翻訳)
草思社 (2014/4/2)












nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント