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労苦と骨折り [言葉]

  およそ商品の価値は、それを所有していても自分では使用または消費しようとはせず、他の商品と交換しようと思っている人にとっては、その商品でかれが購買または支配できる他人の労働の量に等しい。それゆえ、労働はすべての商品の交換価値の真の尺度である。
 あらゆる物の真の価値、すなわち、どんな物でも人がそれを獲得しようとするにあたって本当に費やすものは、それを獲得するための労苦と骨折り(1)である。あらゆる物が、それを獲得した人にとって、またそれを売りさばいたり他のなにかと交換したりしようと思う人にとって、真にどれほどの価値があるかといえば、それによって彼自身がはぶくことのできる労苦と骨折りであり、換言すれば、それによって他の人々に課することができる労苦と骨折りである。~略

(1)スミスの価値論とともに有名な「労苦と骨折り」(toil and trouble)という表現は、イギリス古典経済学の特色の一つである労働価値の思想を表すものである。この思想の源泉は、スミスの先行者ウィリアム・ペティにもステュアートにもあるが、スミスはこれらの先人の思想を継承しながら、「労働こそは最初の価格」であり、「物の真の価格」はそれを獲得するための「労苦と骨折り」にほかならないという労働価値の思想を生み出したのであった。
「労働と骨折り」は、一面では十八世紀的な「インダストリー」をいい表わし、それによって「富」がつくられるのだという主張にむすびつくとともに、他面では「労苦と骨折り」としての「労働」は、人間にとって「苦痛」を意味し、とりわけそれが雇用労働の場合には、その度合いはとくにはなはだしい、賃金の大きさも「労苦と骨折り」の大きさによっておのずから定められる、と考える。
「労働を」一面で生き甲斐的な人間行為、他面で避けるべき苦痛として判断すること、この二つの面がこの「労苦と骨折り」という言葉のなかにふくまれているようにみえる。


国富論 (1)
アダム・スミス (著), 大河内 一男 (翻訳)
中央公論新社 (1978/4/10)
P52



興福寺 (18).JPG興福寺


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