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農業する虫 [雑学]

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 キノコシロアリは朽ち木や枯れ草を食べ、その糞に菌糸を植えつけ、菌園という畑を作る。キノコシロアリはその菌を食べ、朽ち木などからは得られない蛋白質を得るのである。
 ハキリアリの場合、植物の葉を切り取り、巣に持ち帰り、そこに菌を受けつける(写真70)。
栄養に富んだ菌は主に幼虫の餌となるが、働きアリも食べ、普段食べている植物の汁では補いきれない栄養源となっている。
~中略~ 
 これらの方法はヒトのキノコ栽培とも似ている。たとえばわれわれの食べるシイタケは、原木といわれるクヌギやコナラの薪(まき)に、菌糸を植えつけた木の粒を打ち込む。
ヒラタケやマイタケは、おがくずに菌糸を植えつける。
 ただし、ヒトはどちらの場合も、そこから生える子実体(しじつたい)といわれる部分、植物でいえば花にあたる部分を「きのこ」と称して食べる。
「農業の先輩」であるキノコシロアリやハキリアリが人と違う点は、子実体ではなく、菌糸を食べることである。~中略~
 そして、その栽培方法には驚くべきものがある。
 菌園は地下に作られるのだが、土の中は雑菌にあふれ、単純にそこに菌を植えつけると、あっという間にカビやバクテリアやほかの菌で壊滅状態となってしまう。
 ハキリアリのきょうぶには特別な共生バクテリアが付着しており、それが余計な微生物の成長を抑える抗生物質を分泌している。
その抗生物質は共生菌には影響を与えないので、効率的に栽培を行うことができる。
 この方法は、虫には申し訳のない、悪いたとえだが、ごく最近開発された悪名高き農法、雑草を枯らす除草剤をばらまき、そこの除草剤に耐性のある遺伝子組換え作物を栽培する最新鋭の農法と原理的に非常に似通っている。
 昆虫はヒトより先に農業を行っていたばかりでなく、もっとも効率的な方法までも先に編み出していたのである。

P148
 ハキリアリの場合、新女王がどのように最初に菌園を作るかというと、自分が生まれた巣の菌園から、菌糸の束を口の付近にある袋に入れ外に飛び立つ。
交尾した雌アリは、羽を切り落とし、地面深くに穴を掘る。そして、袋から菌糸を取り出して、自分の糞に植えつけ、菌園の栽培を一から開始するのである。
 つまり、自分の親の育てた菌を先祖代々受け継ぐ。まさに「一子相伝の菌」(羽アリはたくさんいるので、性格には一子ではないが)なのである。この修正も、ハキリアリと菌の共進化の重要な背景の一つである。
 糞に植えた菌が成長すると、新女王はその近くに卵を産み、孵化した幼虫はその菌を食べて育つ。働きアリが誕生すると、それらが外に出て、葉を切り出すようになる。

昆虫はすごい
丸山 宗利 (著)

光文社 (2014/8/7)








DSC_2449 (Small).JPGむらかみ牧場 (タカトシ牧場)


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