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数字のマジックに騙されるな [ものの見方、考え方]

  虫歯を削った後に使う詰め物には水銀の合金が使用されており、ごく微量の水銀蒸気が発生します。これは無機水銀で、メチル水銀のような強い神経毒性はありませんが、ヒトの水銀暴露の一要因となります。
 英国の妊娠女性の毛髪中水銀とアマルガムの有無には関係があり、歯に詰め物をしていない女性とその子どものほうが毛髪中水銀濃度が有意に低くなっています。


このデータだけを見ると、歯の詰め物がある人は毛髪中水銀濃度が2倍になるので心配になるかもしれません。実際英国ではアマルガムの水銀が問題視されています。しかし詰め物によって増加した水銀の濃度は0.2~0.3ppm程度であり、これがもし毛髪中水銀濃度が10ppmを超えることもめずらしくない日本の女性で調査されていたら、アマルガムの有無による差はバックグラウンドの変動に埋もれて検出できなかったでしょう。
英国人女性の毛髪中水銀濃度が0.2ppm程度と少ない値でその変動幅も小さいために、歯の詰め物によるごく僅かな影響も検出できるのです。


 バックグラウンドが低い、すなわち汚染が少ないというのはリスクが小さいということですから喜ばしいことなのですが、メディアはアマルガムで水銀濃度が上がるから問題であるというふうに、きわめて狭い範囲の情報だけを取り上げて報道することが多いのです。ヨーロッパではアマルガムの問題について対応せざるを得なくなり、リスク評価を行って問題ないという結論をだし、広報を行っています。
水銀が心配だからという理由から、現時点ではなんの問題もない詰め物をほかの材料のものに代えるようなことはすべきでないと説明しています


 一般論として、なんらかのリスクなりベネフィットなりを誇張して表現したい場合、数字は絶対値でなく□□の何倍、△△より増えた、といった表現が好まれるようです。
小さい数字はたとえ2倍になっても小さいままです。


畝山 智香子 (著)
ほんとうの「食の安全」を考える―ゼロリスクという幻想
化学同人 (2009/11/30)
P116



ほんとうの「食の安全」を考える: ゼロリスクという幻想 DOJIN選書

ほんとうの「食の安全」を考える: ゼロリスクという幻想 DOJIN選書

  • 作者: 畝山智香子
  • 出版社/メーカー: 化学同人
  • 発売日: 2018/09/24
  • メディア: Kindle版



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P125
トランス脂肪酸の表示に関しても、必ずしも表示することが科学的に正等であると世界中で考えられているわけではありません。~中略~
したがって日本のようにとくに問題がない場合には表示によるメリットはほとんどなく、表示することによるデメリットだけが加わることになります。~中略~
表示項目が多く複雑になればなるほど消費者は表示を読まなくなり、大切な情報が伝わりにくくなるため表示はできるだけ単純で明確なものがよい、とされているのです。日本の場合、トランス脂肪酸の表示より、基本的な栄養成分表示が優先課題でしょう。



ほんとうの「食の安全」を考える―ゼロリスクという幻想(DOJIN選書28)

ほんとうの「食の安全」を考える―ゼロリスクという幻想(DOJIN選書28)

  • 作者: 畝山 智香子
  • 出版社/メーカー: 化学同人
  • 発売日: 2009/11/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 


日本の研究者は「サマリー」(冒頭の要旨)だけを読んで、そこになるデータを引用してしまうことが多い(住人注;海外の研究者も同じと思います。自分の主張を正当化するのに都合のいい論文をセレクトしているのですから)。しかし論文全体を精読すると、行われた調査手法に問題があるなど、根本的な欠陥に気づくこともあります。
 また、データの解釈の仕方というのは大変恣意的なものです。2人の研究者が同じ論文を読んで、180度違う正反対の見解を示すこともあるほどです」
取材・文/山守麻衣(ライター)
別冊宝島2000号「がん治療」のウソ
別冊宝島編集部 (編集)
宝島社 (2013/4/22)
P79



別冊宝島2000号「がん治療」のウソ (別冊宝島 2000)

別冊宝島2000号「がん治療」のウソ (別冊宝島 2000)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2013/04/22
  • メディア: 大型本



例をもう一つ。人間が生きていくために必要な耕地や海の広さを割り出して環境への負荷を見る手法がある。「エコロジカル・フットプリント(EF)」と呼ばれる指標だ。~中略~

世界自然保護基金の試算によると、日本人のEFは二・三。つまり、世界中の人が日本人並みの生活をしたら、地球は二・三個必要だという。「へえ、日本人はぜいたくなんだ」と思うでしょう。
その数字自体は正しいが、「世界中の人がアメリカ人並みの暮らしをしたら、地球は五個必要」というデータを
聞いたらどうだろう。「なんだ、日本はやっぱり慎み深いのね」と正反対の印象になる。
ちなみに、世界で見れば日本は二十九位だそうだ。
気になる科学 (調べて、悩んで、考える)
元村有希子 (著)
毎日新聞社 (2012/12/21)
P77


 



気になる科学 (調べて、悩んで、考える)

気になる科学 (調べて、悩んで、考える)

  • 作者: 元村有希子
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2012/12/21
  • メディア: 単行本



 世の中が不安だらけになると占いや予言が流行るが、冷静になれば、そういうことを頼りにしてはいけないことがわかる。
 では、何を頼りに判断をすればよいのだろうか。
 世の中の状態を冷静に判断するには、「真実」を知る必要がある。

 それには、現実から調べた数字をもとにして事実関係を積み上げて結論を得るしかない。
 だからといって、数字が現実のすべてを表せるとは限らない。
 たとえば、新聞には毎日のように世論調査の数字が出てくる。この世論調査というのは、答えてくれる人をいろいろな職業、いろいろな年収、すべての階層から選ばないといけない。だから完璧な世論調査というものは、本来、存在しないものなのだ。
~中略~
 数字をみると、数字の厳密さを思い浮かべる人がいる。しかし、それは誤解である。数字が正確かどうか、何を意味しているかを判断するために、数学的な方法が必要なのだ。数字に厳密性などない。むしろ、間違えた結論を出す危険性がある。
~中略~
 数学を使って、現実に起こっていることを調べるためには、必ず数学における仮定というものを考えないといけない。
今調べようとしている現実が、その仮定を満たしているかどうか考えないといけない。満たしていれば、数字はとても強力な道具になる。しかし、仮定を満たしていない現象に使えば、数字の定理が間違った結論を導いてしまう。
 仮定を満たしていない現症に、数学の定理を応用していることが、最近よく見受けられるのである。



世の中の罠を見抜く数学
柳谷晃 (著)
セブン&アイ出版 (2013/3/1)
P4



世の中の罠を見抜く数学

世の中の罠を見抜く数学

  • 作者: 柳谷晃
  • 出版社/メーカー: セブン&アイ出版
  • 発売日: 2013/03/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



数字の解釈はどうにでもなるもので、たとえばコレステロールが一定以上高いにんげんをつかまえて、薬によってこれを下げると、狭心症や心筋梗塞になる頻度は三三パーセント下がる、とする。さあ大変だ。
っぱり下げないと。しかし、三パーセントの発症率が二パーセントになると、これは三三パーセントの低下である。
要するに、飲まないと九七パーセントオッケー、飲めば九八パーセントオッケーであると聞かされると、途端に薬を飲む気が起きなくなるであろう。
なんだ、では三三パーセント減少というのは嘘ではないにせよ、製薬メーカーの売り文句で、大して意味はないのか。
 しかし、しかしである。そういう人間が一千万人いたとして、狭心症や心筋梗塞の発症率が三パーセントから二パーセントになるということは、一パーセントつまり十万人が救われるということで、一年間に肺癌になる人が全部助かった場合よりも多い数字になる。
これは公衆衛生上、もしは保健政策上、無視してよい数字ではない。
 要するに、立場によって数字の解釈などはころころ変わる。


偽善の医療
里見 清一
(著)
新潮社 (2009/03)
P112







偽善の医療 (新潮新書)

偽善の医療 (新潮新書)

  • 作者: 里見 清一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/03/01
  • メディア: 新書



P208
 ものごとを統計的に考える能力というのは、生きていく上で非常に重要です。アンケート調査なんかの結果をどう解釈するか、というのも統計的なリテラシーがあってこそです。
「嘘には三種類ある。嘘と大嘘、そして統計である」というイギリスの首相であったディズレーリの言葉なんかがありますが、正しい統計を正しく解釈すると、いろいろなことがわかってきます。


P209
 我が国における、がん(広義のがん、悪性新生物のことです)による死亡数は男女とも増加し続けており、2013年には1985年の約2倍になっています。医学が進歩してるはずなのにどうして、と思われるかもしれませんが、これは主として高齢化による影響が大きいのです。
年齢で補正した死亡率でいうと、女性は1960年から右肩下がりですし、男性は1995年くらいまでは増加していましたが、現症に転じています。この減少は間違いなく医学の進歩によるものです。


P210
子宮がんによる死亡率も過去半世紀で非常に低下しています。これが、女性のがんによる死亡率低下の大きな要因です。意外にも、乳がんによる死亡率はあまり下がっていません。治療法の向上があったのは間違いないのですが、罹患率が向上しているので、それによって相殺されてしまっています。
 乳がんと同じように大腸がんの罹患率も上昇傾向にあります。乳がんや大腸がんは、もともと欧米人に比較して日本人では少なかったのですが、おそらくは、ライフスタイル、特に食べものの欧米化にともなって増加してきているのです。また、胃がんの率は欧米人に比較すると日本人は非常に高かったのが、次第に減少してきているのも、同じようにライフスタイルや食事といった理由によるものです。


P223
医学は、統計的なデータを示してくれますが、個別例の将来を予測してくれはしません。だから、エビデンス、すなわち、これまでに得られた統計的データを基に、自分で判断するしかないのです。治療法の種類が増えて複雑になってきている上に、インフォームドコンセントをうけて治療の方針は自分で選択しなければならないのです。


こわいもの知らずの病理学講義
仲野徹 (著)
晶文社 (2017/9/19)





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