脳始 [哲学]
P183
しかし人の死の定義が簡単な問題でなかったように、人の生の定義も全く簡単な問題でない。今後必ず次のような論議が立ち上がってくるはずだ。
人の死を、脳の死ぬ時点に置くのならば、論理的な対称性から考えて、人の生は、脳がその機能を開始する時点となる。つまり「脳始」である。
「脳始」論に立てば、明らかに、受精卵はまだ人でない。
~中略~
受精卵およびそれが細胞分裂してできる胚が、脳始以前の、まだ人でない、細胞の塊に過ぎないとみなされるなら、それを再生医療にいくらでも利用しうるからである。
私たちが信奉する最先端科学技術は、実は私たちの寿命を伸ばしているのではない。両側から私たちの生命の時間を縮めているのである。
P187
一体いつヒトはヒトになるのか。日本の民法は「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす」としか規定していない。
福岡 伸一 (著)
ルリボシカミキリの青
文藝春秋 (2010/4/23)
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