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歴史を学べ [学問]

   いまわれわれが自分の先祖のことについて見るとき、五代六代以前のことがどれほど正しく伝承されているだろうか。
私はそのことについて教えていた学生たちによく質問したが、わかっているのはせいぜい祖父,曽祖父の時代までのことであり、高祖父のことについて知る人は稀である。
一〇代おなじ土地に住んだということのはっきりしている家は、私の教えた学生の中で一割にも満たないのである。

日本文化の形成
宮本 常一 (著)
講談社 (2005/7/9)
P10  

TS3E0533 (Small).JPG旧門司税関庁舎

日本文化の形成 (講談社学術文庫)

日本文化の形成 (講談社学術文庫)

  • 作者: 宮本 常一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/07/09
  • メディア: 文庫

 

「だいたい鎖国というのは」
と、長井はいう。古来の方針でなく、三代将軍家光のとき幕府が島原の乱に懲りて国を鎖してしまったのである、と長井はいう。
このくだり、後世では信じられないようなことだが、この幕末当時、日本史についての通史は頼山陽の「日本外史」が存在する程度で、よほどの教養人でも日本史に暗く、孝明帝でさえ、鎖国は天皇家の祖である天照大神以来の祖法であると信じ、「開国しては皇祖皇宗に申しわけない」とのみ言いつづけていたし、まして志士たちは、鎖国は僅々二世紀前の法で、しかも幕府が幕府体制を維持するためにやった法だということを知らない。
この天下あげての大錯覚を天下にむかって指摘したのは、長井雅楽が最初である。
―だから、長井は殺された。
と、維新後、ある長州系の要路の大官がひそかにいったというが、あるいはそうかもしれない。

世に棲む日日〈2〉
司馬 遼太郎 (著)
文藝春秋; 新装版 (2003/03)
P257

新装版 世に棲む日日 (2) (文春文庫)

新装版 世に棲む日日 (2) (文春文庫)

  • 作者: 司馬 遼太郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2003/03/10
  • メディア: 文庫

現代社会では「改革」に価値を認め、「保守」を蔑(さげす)む傾向がある。しかし、歴史的に朝廷では「改革」には価値を置かず、むしろ「保守」に価値を見出してきた。
伝統を守り、それを継承していくことこそが最高の価値であり、そのために最大の努力を注いできたのである。
したがって、政務を執り行うに当たって判断に苦慮した場合、朝廷では必ず過去の先例が参照されてきた。

語られなかった皇族たちの真実-若き末裔が初めて明かす「皇室が2000年続いた理由」
竹田 恒泰 (著)
小学館 (2005/12)
P34

語られなかった皇族たちの真実-若き末裔が初めて明かす「皇室が2000年続いた理由」

語られなかった皇族たちの真実-若き末裔が初めて明かす「皇室が2000年続いた理由」

  • 作者: 竹田 恒泰
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2005/12
  • メディア: 単行本

じつは私も若い時があった。それは当たり前だが、その若い頃に歴史の話を年寄から聞くと、よく思ったものである。
年寄りは困ったものだ、ふるいことしかいわない。そんなこと、いまさら関係ねえじゃねーか。いまの若者なら、これを「いいんじゃないんですか」と表現するるらしい。
~中略~
ともあれれ歴史を面白くなるためには、自分自身に歴史ができてくる必要がある。以前は俺もそう考えていたんだけど、あおの頃から考えが変わったなあ。それがないと、歴史は面白くならない。
自分の考えが変わるということは、いわばそれ以前の自分が死んで、別な自分が生まれることである。 それを何度かくり返すと、歴史が面白くなる。ゲーテはそれを「死んで、生まれ変われ」といったらしい。
(住人注;養老 孟司)

解剖学個人授業
養老 孟司 (著), 南 伸坊 (著)
新潮社 (1998/04)
P50

解剖学個人授業 (新潮文庫)

解剖学個人授業 (新潮文庫)

  • 作者: 養老 孟司
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2001/03
  • メディア: 文庫

ナポリの沖合にイスキア島という温泉島がある。一八八三年七月二八日、この島を地震が襲った。局地的な地震(マグニチュード五・六)だったが、震源が浅く、島の温泉町マーサミッチョラは一三秒の揺れでほぼ全壊した。
~中略~
 この時、裕福なイタリア人一家五人が夏のバカンスを楽しんでいた。父と母、兄・弟と妹の五人全員が建物の下に埋もれた。キャンドルの灯りを頼りに、数時間後、救出された時には、父母と妹は息絶えており、体力のある兄弟二人だけが生き残った。
 この兄のほうが、のちに世界的な歴史哲学者となるベネディット・クローチェで、掘り出された時、一七歳であった。孤児になった兄妹は父のいとこ、シルヴィオ・スパヴェンタに引き取られた。~中略~
クローチェはいきなりこの環境に放り込まれた。自伝に、この時の虚脱感を綴っている。「家庭的厄災に茫然と我を失い・・・・病気でないのに、あらゆる病気にかかっているかにみえ・・・・私から希望の喜ばしさをいっさい奪ってしまっ」た。
最近「震災うつ」という用語が使われだしたが、この苦しさは体験した人にしかわかるまい。「これらの年月は私の最も悲しく暗い時期であった。
夜、頭を枕によこたえて、朝めざめないようにと切に熱望し、自殺の考えさえおこ」ったという(坂井直芳訳「ベネディット・クローチェ自伝」「十九世紀ヨーロッパ史」)。
 しかし、時間は苦しむ者の味方だ。苦しいのは今だけで、永久には続かぬと思えば救われる。クローチェはローマの図書館に通いはじめ、スパヴェンタ家で哲学者ラブリオーラに出会い、哲学と歴史の研究に入った。
彼は、デカルトとは反対に、我有る故に、我思う、生は理性に先行すると悟ったのか、「生の哲学」と歴史を結びつけた。そして、世界的に有名な歴史哲学の深遠な言葉=「すべての真の歴史は現代史である」に到達した。
 人間は現代を生きるために過去をみる。すべて歴史は現代人が現代の目で過去をみて書いた現代の反映物だから、すべての歴史は現代史の一部といえる。歴史はその時代の精神を表現したもの、生きる人間のものではないか。

天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災
磯田 道史 (著)
中央公論新社 (2014/11/21)
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天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書)

天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書)

  • 作者: 磯田 道史
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/11/21
  • メディア: 新書

 私は司馬さんの文章を読むとき、その出来事がなぜ起きたかという因果関係を彼がどのようにとらえているかを文脈から読み取るように心がけています。
そもそも私たちはなぜに歴史を学ぶのでしょうか。過去を例に、どうしてそうなったかを知っていれば、現在や将来に似たような局面に出くわしたときに、役に立つからでもあります。

「司馬遼太郎」で学ぶ日本史
磯田 道史 (著)
NHK出版 (2017/5/8)
P27



P143
古式ゆかしく、などと言うが、我々の伝統だと思っているもののなかには意外と伝統ではないものが多い。日本人の婚礼も昔からの儀式は三三九度の盃くらいかもしれない。

 江戸期の資料をみる限り、婚礼は<1>夜間に<2>自宅で<3>神主の関与なしで行なっていた。神の前で誓いを立てる神前結婚は明治以後につくられたものである(平井直房「神前結婚の歴史と課題」)。 

P240
 熊本で大地震が起きた。一報をきいた時、私は「やれれた!」と思った。悔しかった。悔しく思ったのには理由がある。
約四〇〇年前にも慶長三陸地震といって東北に大津波がきたことがあった。この四〇〇年前の東日本大震災のあと最初に大地震が襲ったのが「熊本」であった。
一六一一年に慶長三陸地震がきたあと、八年後に肥後八代(やつしろ)地震(一六一九年)、一四年後に肥後熊本地震(一六二五年)がきた。前回は八年後、今回は五年後であったが、まさかこんなに忠実に東北震災のあとに熊本が襲うとは思ってもみなかった。
 これは詳しく古文書を調べねばと思った。京大図書館に行けば「新収日本地震資料」という地震史料全集がある。~中略~
 それを読んでみて驚いた。今回の熊本地震は「揺れの顔つき」が四〇〇年前のそれに酷似していたのだ。
肥後八代地震は朝の卯(う)刻から揺れがきて旧八代城(麦島(むぎしま)城)が正午頃の午(うま)刻に倒壊している(「肥後国志」)。朝に前震、昼に本震がきて城が耐え切れず全壊した。しかも、このとき揺れは東北方向に拡大。「岡(大分県竹田市)大地震。御城中、所々破損」と、竹田城が破損した。現在と全く同じ展開である。
 今回の熊本地震もそうだが、どうも中央構造線の地震は連発しやすいらしい。一五九六年には、わずか五日の間に、伊予(愛媛)・豊後(大分)・伏見(京都)と、三か所ほぼ同時にマグニチュード(M)7クラスの地震が襲った。一六二五年には、三か月おきに、広島・愛媛・熊本が地震に襲われ、広島城と熊本城の石垣が崩れ、櫓(やぐら)が崩壊している。これも今とそっくり。
地震に遭うと城というものは、まず長塀が倒れ、石垣が上から崩れて、多聞(たもん)櫓といって細長い形の櫓が真っ先に落ちて崩壊する。

P243
 将来、地震が起きた時、熊本城の建物や石垣を保護し、見学者の犠牲も出さぬためには、やはり何らかの知恵が要る。つまり、伝統工法を尊重しつつ、文化財としての石垣を損なわぬ形で、崩れにくく石垣を積まねばならない。そんなのは無理にも思えるが、そうでもないらしい。
 地盤防災工学が明らかにした最新の石垣研究の成果を、城郭考古学者の千田嘉博先生が教えてくれた。~中略~ このメカニズムは二〇一六年、関西大学教授を退任された西形達明先生の研究グループが振動実験やシュミレーションで検証して解明済みである。
~中略~
 私が感服したのは西形先生たちがお城の石垣を地震から守る工学的研究を、今回の熊本地震が起きる前から、きちんと準備してあったことだった。実物大の石垣モデルを振動台のうえに乗せて実験。石垣が地震時にどう動くか調べ上げた論文はすでに二〇一〇年に発表されていた。

 

日本史の内幕 - 戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで
磯田 道史 (著)
中央公論新社 (2017/10/18)


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