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絶対知 [言葉]

「精神現象学」が語るのは、学問に至る意識の悪戦苦闘の旅である。そして、旅の最後に「絶対知」が来る。
 絶対知とは、知が自己と世界のあいだを自在に、のびやかに、行きかう境地をいうことばである。自分の感情や感覚にとらわれず、生活上の利害や他人の思惑や時代の嗜好や世の常識に引きずられず、さまざまな権威や権力の圧迫にも屈することなく、冷静に、客観的に、現実の総体をとらえ、知ること―絶対知とは、そういう精神の姿勢をさすことばである。

意識は透明な思考の世界に身を置いて、ひたすら事実と論理を追いかけ、それを理路整然たることばの世界に移しかえる。そういう純粋無雑な知と思考の働きをヘーゲルは"Begreifen"(概念作用ないし概念的思考)という用語でよくあらわすが、絶対知とは、日常的な、欲望や思いこみや偏見や打算や恣意や好悪を脱却して、概念作用(Begreifen)が自由自在にその運動を展開する境地をいう。

新しいヘーゲル

長谷川 宏(著)
講談社 (1997/5/20)

P50







大安寺 (9).JPG大安寺

P57
道徳や宗教とちがって、知には現実にたいするおよび腰の姿勢はまったくない。知はどんな極悪非道にも光を当てるし、どんな瀆神行為や無神論にもたじろがない。自分の内面にむかっても、まわりに大きく広がる外界にたいしても、涯の涯までその真相を見きわめようとするのが、知の働きというものである。
自分の足場をしっかりと固めつつ、現実のどんな事態にたいしても、成心なく冷静に立ちむかうのが知的な姿勢というものである。
 そういう姿勢は、一定の明確な形式や体系を備えた学問の周辺だけに見られるものではない。あるいは、なになに学と名のつく学問にたずさわる学者や知識人だけに要求されるものではない。


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